骨折と聞くと、多くの人は体に強い衝撃を受けたときに発生すると思いがちですが、医師の野尻英俊氏によれば、高齢者の骨折は「日常生活の最中、たとえば物を持ち上げる際や軽い尻もちをついた際に発生するケースが大変多い」といいます。
65歳以降の女性に急増する、こうした「いつの間にか骨折」の危険性と、その見極めのサインについて、野尻氏の著書『人は背中から老いていく 丸まった背中の改善が、「動ける体」のはじまり』から、一部を抜粋・編集してお届けします。
■「背中の老い」がもたらす転倒・寝たきりリスク
「このあいだね、お茶飲み友だちの向井さん(仮名)が、転んで脚を骨折しちゃったのよ。そのまま寝たきりになってしまうんじゃないかって心配してたわ。私も最近、よく転びそうになるから本当に不安。年寄りが転ぶのって、けっこう大きな問題なのよね?」
声の主は、80代女性患者の小林さん(仮名)です。友人の向井さんが転倒して骨折したことと、ご自身にも同じようなことが起こらないかと不安になっていることを、沈痛な面持ちで話してくださいました。
小林さんのいうように、高齢者の転倒は本当に危険です。骨折と、それにともなう寝たきりの可能性を高めてしまいます。
とくに脚の骨折は、長期間の自立歩行を妨げ、筋力低下を増幅してしまうので、最大限気をつけなければなりません。高い確率で、身体機能や認知機能が著しく衰えて要介護になりやすい、いわゆる「フレイル」と呼ばれる状態に直結してしまいます。
日本老年医学会は、「脊柱後弯角が大きい高齢者は、要介護状態になりやすく、ADL(日常生活動作)の低下が顕著になる」ことを指摘し、「とくに、コブ角(脊柱のなかでもっとも傾きのある上方の骨と下方の骨それぞれから直線を伸ばし、2本の直線が交差する部分の角度のこと)が40度以上後弯している高齢者は、転倒→骨折→入院→寝たきりという流れに陥るリスクが高まる」という見解を示しています。