杉本昌隆八段が語る、藤井聡太七冠を育んだ「才能を潰さない」指導法とは

将棋界で数々の才能を育成してきた棋士、杉本昌隆八段。藤井聡太七冠を含む5人のプロ棋士を輩出し、将棋研究室の主催を通じて100人近くの子どもたちと接してきたその経験は、若手育成における深い洞察に満ちています。ジャーナリストの笹井恵里子氏の取材に応じた杉本八段は、「才能が伸びる子」と「伸びない子」の違い、そして子どもの才能を「潰さない」ために大人がどのように接するべきかについて語りました。特に、周囲の大人が良かれと思って協力しているつもりが、かえって有望な才能の足を引っ張ってしまうケースは少なくないといいます。

藤井聡太七冠らを育てた杉本昌隆八段が、将棋を通じて若手棋士の育成と才能開花について語る藤井聡太七冠らを育てた杉本昌隆八段が、将棋を通じて若手棋士の育成と才能開花について語る

才能を伸ばし、育むための大人の「接し方」

これまで多くの将棋を教える中で、子どもたちの才能を伸ばし、「ここ一番」という時に力を発揮させるための「声がけ」の重要性を杉本八段は強調してきました。今回はその逆、すなわち貴重な才能を「潰さない」ための具体的な接し方に焦点を当てます。子どもたちに限らず、あらゆるグループやコミュニティにおいて、誰かが際立って活躍すると、それに「嫉妬する人」が現れることがあります。このような状況では、「嫉妬する人」と「嫉妬される人」の双方への適切なアプローチが求められるのです。

嫉妬される側への心構え:藤井聡太七冠の教え

「嫉妬される人」に対しては、技術的なアドバイスは不要な場合が多いものの、人間的な側面、特に態度や振る舞いについては細心の注意が必要です。杉本八段は、藤井聡太七冠が弟子入りした当初を振り返り、「君は兄弟子を追い越すほど強くなるだろうが、それでも彼らは先輩である。先輩に対する礼儀作法を決して忘れないように」と諭したといいます。これは、卓越した才能を持つ者が周囲と円滑な関係を築き、長く活躍していく上で不可欠な要素です。

嫉妬する側への適切なケアと励まし

一方、「嫉妬する人」は、往々にして自身の成長に悩みを抱えていることが多いため、より丁寧なケアと励ましが必要となります。杉本八段は兄弟子たちに対し、「今は藤井くんが目立っているけれど、君は君でやれることをやればいい。いつか追いつけば、その努力は決して無駄にならない」というように声をかけ、彼らの自己肯定感を支え、モチベーションを維持するよう努めました。

競争から生まれる相乗効果:理想的なコミュニティの形成

杉本八段が目指すコミュニティの最高の形は、「嫉妬する人」の実力が追いつき、「嫉妬される人」と健全なライバル関係を築くことです。これにより、両者は互いに高め合い、相乗効果によって個々の能力をさらに有能なものへと押し上げます。結果として、それぞれが自分の役割や目標に専念できる、居心地の良い環境が生まれるのです。才能の育成には、単なる技術指導だけでなく、複雑な人間関係を管理し、ポジティブな競争環境を作り出す大人の知恵と配慮が不可欠であると、杉本八段は説きます。

参考文献