イギリスの主要紙デーリー・メール電子版は26日、今年秋に英秘密情報部(MI6)の初の女性長官に就任予定のブレイズ・メトレウェリ氏(47)の父方の祖父が、第二次世界大戦中にナチス・ドイツのスパイであり、ユダヤ人の虐殺に関与していたと報じました。この衝撃的な事実は、ドイツの公文書館に保管されている資料で確認されたといい、他の主要英メディアも追随して伝えています。
ロンドンの英秘密情報部(MI6)本部ビル
祖父の壮絶な過去:ウクライナでの反ソ活動からナチスへ
報道によると、メトレウェリ氏の父方の祖父は、ウクライナ系のコンスタンティン・ドブロボルスキー氏です。1917年のロシア革命後に起きたボリシェビキ(後のソ連共産党)によるウクライナ地域侵攻で家族を殺された経験から、ドブロボルスキー氏は強い復讐心を抱き、反ソ連活動に身を投じました。1941年にナチス・ドイツがソ連侵攻を開始し、ウクライナ地域を占領すると、彼はナチス側に投降しました。英国とナチス・ドイツは第二次大戦中に激しい戦火とスパイ合戦を重ねた歴史があり、その中で彼の運命はナチスと結びつきました。
ナチス「虐殺者」としての活動と証拠
投降後、ドブロボルスキー氏は故郷でナチスのスパイ活動責任者となります。「エージェント30号」と呼ばれ、「虐殺者」の異名でも知られていました。彼のナチス活動、特にユダヤ人虐殺への関与を示す決定的な証拠が、ドイツ南部フライブルクの公文書館で見つかった資料から明らかになっています。ナチスの上官へ宛てた手紙の中で、ドブロボルスキー氏は「ハイル・ヒトラー」(ヒトラー万歳)と書き、自身が「ユダヤ人の絶滅」に「個人的に」関わったことを誇らしげに記していたと報じられています。これはホロコーストにおける彼の役割の重大さを示唆しています。
祖父の最期と家族の渡英
1943年以降、ソ連軍が反攻に転じ、ドイツ軍を撃退してウクライナ地域を奪還する過程で、ドブロボルスキー氏は妻と息子(メトレウェリ氏の父親)をドイツへ避難させました。自身はウクライナに留まり、間もなく死亡したとみられています。その後、妻はイギリスに渡り、デビッド・メトレウェリ氏という人物と再婚しました。ブレイズ・メトレウェリ氏自身は、父方の祖父であるドブロボルスキー氏に会ったことは一度もないとのことです。
英外務省の見解:「複雑な出自が責任感に」
この報道に対し、英外務省はイギリスのメディアに対しコメントを発表しました。外務省は、「メトレウェリ氏は父方の祖父を知らず、会うこともなかった。彼女の家系には対立と分断の歴史があり、完全には把握されていない」と説明しました。その上で、外務省はメトレウェリ氏を擁護する姿勢を示し、「そうした複雑な出自こそが、紛争を防ぎ、現代の敵対国家から英国民を守るという彼女の責任感につながっている」と強調しました。これは、彼女の多面的な背景が、現代の複雑な国際情勢におけるMI6長官としての職務遂行能力に繋がるという見解を示唆しています。
今回の報道は、英秘密情報部のトップという極めて機密性の高い地位に就く人物の家族歴に、第二次世界大戦中のナチスによる戦争犯罪という重い過去が存在するという複雑な事実を明らかにしました。メトレウェリ氏自身は祖父との直接的な関わりを持っていませんでしたが、英外務省は、その複雑な背景こそが彼女の職務に対する責任感を高めていると説明しており、異例の状況下での新長官就任への理解を求めています。メトレウェリ氏は現在MI6の技術革新部門責任者を務めており、予定通り今秋に初の女性長官に就任するものとみられます。
参考文献:
- デーリー・メール電子版
- Yahoo News記事