ルポ〈ひきこもりからの脱出〉29
スポーツ少女だった石丸あゆらさん(46)は3回ひきこもった経験がある。憧れた仕事に就けずに挫折して、ひきこもったのが最初だ。その後、抗うつ剤で躁転し、双極症と診断。大ケガを負ってしまったり、オーバードーズをして死にかけたことも。なぜ彼女はそこまで追い込まれてしまったのか。(前後編の前編)
〈後編〉
学校も家庭も問題がないのに、3回ひきこもる
「私が『3回ひきこもったんです』と言っても、全然そんな風に見えないねと。家庭環境も問題なくて『全然、恵まれてるじゃん』って(笑)」
おっとりとした口調でそう話す千葉県在住の石丸あゆらさん(46)。小学校から高校までソフトボールに打ち込んだスポーツ少女で、多くのひきこもり経験者のように学校でイジメられた経験もないという。
それなのに、どうしてひきこもってしまったのか。
石丸さんの父親はIT企業でシステムエンジニアをしていた。転勤が多く専業主婦の母、兄とともに千葉、茨城、アメリカ、名古屋など転々として育ったが、転校は苦ではなかったそうだ。
「仲間外れみたいなことをされても、ものともしないというか、群れない感じの子どもでしたね。求められたら学級委員をやったりとか、児童会の副会長をやったりとか。でも、怖い先生にはトイレに行きたいと言えないなど、気弱な部分もありました(笑)」
ソフトボールを始めたのは小学4年生のとき。当時住んでいた名古屋ではソフトボールが盛んで、父親に勧められたのだ。
中学入学と同時に千葉に戻った。経験者がいなかったこともあり、中学ではピッチャーを任された。中3の春には市内の大会で優勝。高校は強豪校に進んだ。
「中途半端にダラダラ練習している方がストレスになるなと思って。結局、ピッチャーでは通用せず、野手の練習をして、最終的にはベンチをあっためる感じでしたけど、とにかく部活しかやっていないみたいな高校生活でした。土日は黒い遠征ジャージで移動していたし、髪も耳の上まで刈り上げていたから本当に男の子みたいで。身長も169センチあるので、駅で女子トイレに入ると、エッて言われたり(笑)」