日本が台湾有事に際してどのような準備を進めるべきか、その問いは喫緊の課題となっています。経済安全保障アナリストの平井宏治氏は、中国共産党総書記である習近平氏の強力な指導の下、中国が有事の際に国際航空便の停止を命じ、中国在留邦人約10万人を「人質」にとる可能性を指摘しています。この潜在的なリスクを回避するためには、日本企業が「脱中国」を真剣に検討し、決断する必要があると警鐘を鳴らしています。本稿では、中国の国家戦略である「富国強兵」政策と、その根幹をなす「軍民融合」政策が日本に与える影響と、経済安全保障上の具体的な脅威について深掘りします。
習近平が推進する「富国強兵」政策の背景
2013年に国家主席に就任した習近平氏は、さらなる経済成長と国力増強を国家目標に掲げました。その具体的な施策の一つとして、2015年には李克強国務院総理の名の下に産業政策「中国製造2025」が発表されました。この政策の主要な目的は、2025年までに中国国内の工業製造能力を飛躍的に向上させ、製造業を労働集約型から技術集約型へと転換させることで、中国を高付加価値製造業の強国へと発展させることにあります。
「中国製造2025」は、中華人民共和国建国100周年にあたる2049年までに、世界のトップに立つことを目標とする10の重点分野を定めています。これには、半導体を含む次世代情報通信技術、高機能NC工作機械とロボット、航空宇宙設備、海洋エンジニアリング設備とハイテク船舶、先端的鉄道交通設備、省エネルギー・新エネルギー自動車、電力設備、農業用機材、新素材、そしてバイオ医薬と高性能医療機器が含まれます。これらの分野における技術的優位性を確立することは、アメリカを追い抜き、世界の技術覇権を握るという中国の野心的な目標を明確に示しています。
中国国家政策の根幹「軍民融合」の脅威
「中国製造2025」と並行して、同時期に中国の産業発展の真の目的を明確に示す政策が打ち出されました。それが、2017年の中央軍民融合発展委員会第1回会議で大々的に宣言された「軍民融合政策」です。この政策は、軍事分野と民間分野の連携を強化し、互いに資源や技術を共有することによって、国家の安全保障と経済発展を同時に推進しようとするものであり、現在の中国の国家政策の根幹をなしています。
軍民融合の方針の下では、民間の持つあらゆる資源や技術は、いつでも軍事利用できる状態に置かれます。現在の中国の産業政策の常識では、技術はまず軍事のためにあるべきであり、それが民間に転用され、研究投資を回収する形が望ましいと考えられています。習近平氏がこの軍民融合政策をどれほど重視しているかは、彼自身が中央軍民融合発展委員会の主任を務めていることからも明らかです。
現代の先端技術、特に半導体技術を例にとれば、私たちが普段使用している電子機器を構成する技術が、すぐに軍事利用できる状況にあることは明らかです。このような状況に対し、中国は軍事を最優先して産業政策を展開することを「軍民融合政策」によって明確にしています。この政策は、アメリカを撃破するために中国が考案した「智能化戦争」の実現化を目指すものであり、日本の経済安全保障にとって看過できない重大な脅威をはらんでいます。
習近平中国共産党総書記の肖像
結論：台湾有事と日本の「脱中国」決断の必要性
中国の「富国強兵」と「軍民融合」政策は、単なる経済発展戦略にとどまらず、その根底には軍事大国化と国際的な影響力拡大という明確な意図があります。特に台湾有事のようなシナリオにおいては、中国政府がその法律を盾に、中国国内の日本人を人質にとる可能性は現実的な脅威として認識されるべきです。
日本企業は、サプライチェーンのリスク分散や人道的な観点からも、「脱中国」への道を真剣に模索し、具体的な行動に移す時期に来ています。経済的な合理性だけでなく、国家の安全保障、そして自国民の保護という視点から、この重要な決断を下すことが、今後の日本の安定と繁栄に不可欠であると言えるでしょう。
