いまだに解消しない日本の米不足は、国民生活に大きな影響を与えています。経済学者の竹中平蔵氏は、この問題の背後には明確な理由があり、それは戦後から続く現行の日本の農地制度にあると指摘します。農業をめぐるシステムの根本的な課題が、現代のニーズに対応できていないというのです。本稿では、竹中氏が解説する米不足を招く農地制度の問題点と、必要な改革について詳しく見ていきます。
日本農業の現状:零細化と高齢化・担い手不足
昭和の「三ちゃん農業」(爺ちゃん、婆ちゃん、母ちゃん)という言葉が象徴するように、日本の農家は零細規模が多く、その多くが補助金に依存しています。農業人口の高齢化は深刻で、将来の担い手不足が農業継続の喫緊の課題となっています。この状況を打開し、安定した食料供給を維持するためには、農地の規模拡大と先端的なデジタル・テクノロジーの導入が不可欠です。
生産性向上への道:規模拡大、テクノロジー、そして企業参入
しかし、個人や零細農家が単独で大規模な農地の規模拡大や高額なデジタル・テクノロジーに投資し、経営を効率化するには限界があります。ここで重要な役割を果たすのが、資金力や技術力を持つ企業の農業分野への参入です。企業が農業経営を行えば、効率的な生産体制を構築し、農業の生産性向上が期待できます。これは、農業で働く人々の所得向上にも繋がるはずです。
企業参入を阻む農地制度の壁と国家戦略特区
現状の日本の農地制度には、一般企業が農地を取得・所有することを原則として認めていない壁があります。農地の売買や権利移動には農業委員会の許可が必要であり、「農業法人」など特定の要件を満たす主体でなければ所有権を持つことができません。こうした規制が、外部からの新規参入や大規模化、技術導入を妨げる要因となっています。
この壁を突破し、農業の活性化を図るために活用されているのが「国家戦略特区」制度です。特区では、自治体と農業委員会の合意に基づき、農地の権利移動の許可事務の一部を市町村長が行えるようになり、企業の農地取得が比較的容易になる道が開かれました。兵庫県養父市などがこの制度を先行して活用し、農業構造改革の事例となっています。
米不足の背景にある日本の農業風景と農地制度
戦後続く制度の歴史的背景と現代の不適合
現在の農地制度は、戦後の農地解放に端を発します。戦前の封建的な大地主制を解体し、農地を耕作する小作人に分け与えることで農業の民主化を図りました。同時に、細分化された農地が再び大地主によって買い占められるのを防ぐため、農地の売買や所有に厳しい制限がかけられたのです。農業委員会による許可制度も、この流れの中で生まれました。
しかし、それから約80年が経過し、日本の農業を取り巻く状況は一変しました。国内での食料供給だけでなく、グローバルな競争に打ち勝つための生産性向上が喫緊の課題となっています。竹中氏は、戦後の理念に基づいて作られた農地制度が、皮肉にも現代に必要な規模拡大や技術導入、そして外部からの投資を促す企業参入といった変化を阻害し、結果として米不足のような問題の一因となっていると指摘しています。
結論:制度改革が日本の農業を救う鍵
現在の米不足は、単なる天候不順などの一時的な要因だけでなく、戦後から続く日本の農地制度が、現代の担い手不足や生産性向上といった根本的な課題に対応できていない構造的な問題の結果であると言えます。竹中氏が提唱するように、国家戦略特区の活用などを通じて、企業参入を可能にし、農地の規模拡大やデジタル・テクノロジーの導入を促進する制度改革こそが、日本の農業が抱える構造的な問題を解消し、将来にわたる食料供給の安定化と国際競争力の強化に繋がる道であると考えられます。
参考:
Yahoo!ニュース(みんなの株式kabuPRESS)
https://news.yahoo.co.jp/articles/2393f6e343b92933257152b12dc959bd0a643236