自民党の高市早苗新総裁が誕生した翌日、興味深かったのは日刊スポーツの一節だった。
【画像】大きなラペルにも意味がある「シルバーグレーのシルクジャケット」を勝負の会談に選んだ高市早苗首相の姿
《党内では、極右政党出身ながら就任後はタカ派的発言を弱めて現実路線を歩むイタリアの女性首相、メローニ氏が、高市氏の念頭にあるのではないかと見る向きもある。》(10月5日)
外交デビューはどうだったのか
自民党ではリベラル派と言われた石破茂前首相は持論を封印して党内融和に努めたが保守派には嫌われていた。結局何もできないままに見えた。逆に保守派の高市首相が持論を封印して政権運営をすれば「現実路線」という評価が待っている?と当コラムで書いた。
そして先週、高市首相は外交デビュー。初の日中首脳会談では「戦略的互恵関係」を確認。首相がこのキーワードを使ったことに、官邸幹部は「高市首相は対中強硬になるのではないかと言われたが、歴代政権と戦略は変えないという意図が込められている」(朝日新聞・11月1日)。さらに首相側近は「中国とは経済関係は深く、険悪になる必要もない」という理由から、首相は「現実路線」を選んだと説明している(同)。
対中強硬派として知られてきた高市首相だが中国に対しては前政権の路線、つまり石破政権と同じだった。
その前におこなわれた日韓首脳会談で、高市首相は席に着く前に韓国国旗に向かってさりげなくお辞儀した。このことは韓国メディアで盛んに報じられたという。韓国の李在明(イジェミョン)大統領は高市氏について「心配がなくなった」と会談後に語った。そういう自分も過去に日本に厳しい態度を示していたのだが「今の態度は当時と異なっている。国を代表する立場では判断や行動を変えねばならない」と述べた。お互いにしたたかな現実路線ということか。
「せっかくイキっていたのに高市首相が石破政権と同じ」
ただ、こうなると気になってしまうのは高市首相に熱い期待をしてきた人たちの心情である。少し前に「週刊新潮」に掲載された高山正之氏のコラム問題があった。コラム内容が外国にルーツのある人に対する差別的な内容で問題になった。連載は終了したがそれらをまとめた著書のタイトルは「高市早苗が習近平と朝日を黙らせる」だという。ああ、このタイトル……。せっかくイキっていたのに高市首相が石破政権と同じということに何を思うのだろうか。SNSでは石破氏と違って中国にきちんと物申している!という声もあるようだが、念のために石破氏・習近平国家主席の初会談(昨年11月)を調べてみると、
『石破首相と習近平国家主席が初会談…日本産水産物の輸入再開申し合わせ、中国軍への懸念も伝える』(読売新聞オンライン)
ほぼ高市首相と同じ姿勢であった。石破氏はネットでは「媚中」と言われていたが、石破路線を継いだ高市首相はそう言われない。まだ様子を見ているのかそれとも驚いているのか。いずれにせよ中国や韓国を黙らせろ的なイキりはむしろ高市首相の足を引っ張る行為にならないだろうか。贔屓の引き倒しが心配である。
さて「媚中」で思い出したが、トランプ米大統領との会談では高市首相は媚びた・媚びないという論争がSNSであった。米海軍横須賀基地の原子力空母でトランプ大統領に紹介されたときにうれしそうに飛び跳ねた態度についてだ。媚びたというなら媚びたのであろう。しかし高市首相に始まったことだろうか。親分肌という言葉があるが日本はアメリカに対して長年「子分肌」を見せてナンボという状態ではないか。高市首相の振る舞いはそうした伝統に沿ったものだろう。石破氏も高市首相も日米地位協定の改定についてはついぞ言わなかった。
1995年、沖縄県で米兵による少女暴行事件に抗議し、主催者発表で8万5000人が集まった「県民総決起大会」から今年で30年。抗議運動は日米両政府を動かし、米軍普天間飛行場の返還合意にもつながったが、米兵らによる事件は今も後を絶たない。
中国にはどうにか懸念を伝える部分もあるのに、アメリカには徹底して子分肌。それを見る側も「媚中」という言葉は使っても「媚米」とは言わない。高市首相を含め、普段から愛国的言説を述べる人たちにこそ沖縄の現実を訴えてほしいが無理なのだろうか。そこは「現実路線」になってほしくない。
					





