新入社員の「早期副業」にマネジャーが猛反対する理由とは?「富の方程式」が示す真実

「いい人になるのはやめなさい」と言われても、つい“いい人”になってしまい、部下に強く言えない管理職が激増しているという。そんな悩める人たちにお薦めなのが、「単なるお金の増やし方ではない“画期的な金融哲学書”」「ストイシズムに基づく新しい人生観が身につく」と話題のベストセラー『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』(スコット・ギャロウェイ著/児島修訳)だ。本稿では、企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタントである横山信弘氏が、本書をもとに「フォーカスの法則」について考察しつつ、特に若手社員の育成という観点から、入社間もない新入社員が安易に副業に手を出すことの問題点について解説する。

入社わずか3カ月の新入社員が副業を開始

「Aさんがブログで副業してるって本当ですか?」

部下からの報告を受けた30代マネージャーは、耳を疑った。入社してまだ3か月。サプライチェーンマネジメントの基礎知識さえ身についていないのに、もう副業を始めているというのだ。詳しく聞いてみると、その新入社員は毎晩遅くまでブログを書き、アフィリエイト広告で収入を得ようとしていた。平日は仕事が終わってから深夜まで、休日は朝から晩まで記事作成に没頭しているという。「みんなで飲みに行こうと誘っても、『ブログ執筆があるので』と断られます」同期の証言によると、彼は会社の懇親会も断り、先輩との食事の誘いも一切受けない。理由はすべて「ブログの更新があるから」だった。課長が直接本人に話を聞くと、驚くべき答えが返ってきた。「YouTubeで見たんですが、副業は早く始めたほうがいいって言ってました。会社の給料だけじゃ将来が不安なので」

マネージャーが新入社員の副業とキャリアについて真剣に話し合う職場風景マネージャーが新入社員の副業とキャリアについて真剣に話し合う職場風景

30代マネージャーが新入社員の副業に猛反対した理由

一般企業において、社員の「副業」を積極的に認めていく動きが加速している。副業は、政府が推し進める「働き方改革」の重要なトピックスにも挙げられている。「キャリアの複線化」などが「副業解禁」の目的だろう。しかし、そう簡単に副業で稼げるわけがないし、「働き方改革」の本来の目的であった「ワークライフバランス」や「クオリティオブライフ向上」が遠のく可能性も高い。30代マネージャーもそれがわかっていた。

副業の問題点はいろいろあるが、最も深刻なのは、本業で必要なスキルが身につかないことだ。サプライチェーンマネジメントは、調達から生産、物流、販売まで一連の流れを最適化する高度な専門職である。在庫管理、需要予測、コスト分析など、習得すべき知識は膨大だ。問題の新入社員は、この知識習得に遅れをとっていた。毎週実施される「理解度テスト」でも赤点ばかりだったのだ。「仕事が終わったら、疲れて勉強する気になれません」新入社員はこう話す。しかし、それなら副業にかける時間とエネルギーを本業のスキルアップに充てるべきだ。会社は新入社員に対し、相当額の教育投資をしている。それを無駄にするような行動は、組織人として問題があると言わざるをえない。

『富の方程式』が強調する「フォーカス」の重要性

ベストセラー『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』には、「フォーカスの法則」が詳しく書かれている。経済的自立を築くためには、数十年にわたる努力に「フォーカス」することが重要だという。同書によれば、「富の方程式」の大きなカギは、仕事への集中と収入アップである。キャリアを積むための重要な時期(特に20代)は、仕事を優先することを受け入れるべきだと述べている。「一点集中こそが成功への道」この原則に従えば、新入社員が今すべきことは明確だ。本業で確実に成果を出し、専門性を高め、組織内での信頼を築くこと。副業に手を出すのは、本業で十分な実績を積んでからでも遅くない。まだ今の職場で貢献できるほど時間を費やしていないのに、別の副業にフォーカスすべきではないのだ。

副業成功に必要な「最低必要努力投入量」とは?

そもそも、多くの人は副業を甘く見ている。時間を切り売りするような副業なら、それほどの努力は不要だろう。しかし、たとえばウーバーイーツや飲食店での接客などをしたら、本業と合算した総労働時間は長時間に達する。その結果、ワークライフバランスが崩れるし、本業への影響は必至だ。一方、情報発信したり、何かを仕入れて販売したりするスタイルなら、収入が安定するまで努力することで、それなりに継続収入が見込めるだろう。

とはいえ、そこに達するまではかなりの努力が必要だ。このような副業に手を出す人に、私はいつも問いたいと思っている。副業を軌道に乗せるまでの「最低必要努力投入量(ミニマム・エフォート・リクワイアメント)」について、どう見積もっているのか、と。たとえば、ブログを書いてアフィリエイトで月10万円稼ぐには、どれほどのコストが必要か。経済的コスト、時間的コスト、精神的コスト。この3つのコストを相当量投下して初めて成し遂げられるものだ。天才でない限り、あてずっぽうにブログを書いて成果を出せるはずはない。普通は教材を購入したり、研修に参加したりしてノウハウを吸収しなければ難しいだろう。それなりに経済的コスト、時間的コストはかかるのだ。私の知人で毎日3時間ブログを書き、1年後に収益化した人がいた。「一年頑張って、ようやく月10万円。とても割に合わない。この状態がずっと続くとは思えないし」と嘆いていた。しかも、このように成功する保証はどこにもない。その1年間、毎日3時間を本業のスキルアップに充てたら、どれほど成長できただろうか。

まとめ

お金を稼ぐことは決して簡単ではない。よほど好きなものならともかく、確実に成果が見込め、自己資本の強化にもつながる本業へリソースを集中(フォーカス)させるべきなのだ。多くの人が陥る罠は、「副業なら簡単に稼げる」という幻想だ。副業で安定した収入を得るには、本業と同じかそれ以上の努力が必要だということを知っておこう。新入社員がそのエネルギーを分散させるのは、あまりにももったいない。まず本業で一人前になること。それが結果的に、将来の選択肢を大きく広げることになる。30代マネジャーの「副業はやめろ!」という言葉は、部下の将来を真剣に考えた末の、愛のある指導だったのだ。若い頃の「一点集中こそが成功への道」という著者の「フォーカスの法則」こそノイズまみれの時代を生き抜くうえでとても重要なアドバイスなのだ。

参考文献

  • スコット・ギャロウェイ 著, 児島 修 訳. 『THE ALGEBRA OF WEALTH 一生「お金」を吸い寄せる 富の方程式』.

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