今日、日本の若者たちの間で絶大な人気を誇るK-POPアイドル。彼らのスラリとしたスタイルに憧れ、その外見に近づこうと努力する日本のファンも少なくありません。しかし、アイドルたちが実践しているとされる過激なダイエットやトレーニングの模倣は、摂食障害、特に拒食症と隣り合わせの深刻な危険を孕んでいます。過剰に痩せている体型が「魅力的」とされる韓国の価値観は、日本の若者にも影響を及ぼしており、その背景にある問題点を理解することは非常に重要です。
オンラインで広がる危険な痩身肯定論「シンスポ」
「折れそうなほど細い脚」など、極端な細さを賛美し、痩せたい気持ちを煽る画像や情報、通称「シンスピレーション(シンスポ)」は、拒食症を肯定する「プロアナレクシア(プロアナ)」のオンラインコミュニティだけでなく、TikTok、YouTube、Instagramといった主流のソーシャルメディアプラットフォームでも広く拡散しています。
世界的に活躍するK-POPのアイドルたちは、TikTokなどで頻繁に「シンスポ」の対象として取り上げられています。K-POPカルチャーのファンであれば、アイドルのような体型になるための過激なダイエットやトレーニング、徹底的な絶食を奨励するファンの動画や投稿を容易に見つけることができるでしょう。これらのコンテンツは、短期間で体重を激減させるクラッシュ・ダイエットや、倒れるまで続くような過酷なトレーニングといった危険な行動と密接に結びついています。
健康的な体を目指すイメージ。K-POPアイドルのような外見への憧れが極端なダイエットに繋がる危険性を示す
ソーシャルメディアが助長する「美の基準」の狭まり
幼少期に摂食障害を経験し、現在摂食障害患者の治療を専門とするセラピストのキム・ユナ氏は、「美の基準はますます狭く厳しくなっているようです」と指摘します。その原因の一つとして、ソーシャルメディアの普及を挙げています。特定のコンテンツを見ると、関連するものが次々とレコメンドされるアルゴリズムの特性により、例えばプロアナや極端なダイエットに関する投稿を目にし始めると、ユーザーはより過激で厳しい内容に引き込まれやすくなります。
これは、テクノロジーがユーザーの需要を満たすだけでなく、同時に新たな需要を生み出している典型的な例と言えます。特にK-POPやK-POPアイドルに関心を持つ子どもやティーンエージャーは、アルゴリズムによって食事制限や痩身に関する動画を無限に見せられる状況に置かれがちです。
若者の認識を歪める「知覚狭小化」のリスク
人間の認識は周囲の環境によって形作られますが、脳が発達途上にある若者においては特にその影響が顕著です。心理学における「知覚狭小化」というプロセスは、若者が繰り返し遭遇する刺激に対する知覚能力を向上させる一方で、経験の少ないものへの知覚能力を低下させる働きがあります。例えば、特定の言語や文化に繰り返し触れることで、その言語や文化への理解が深まる一方、あまり触れないものへの理解は進みにくい、といった現象です。
この概念を極端な痩身イメージへの曝露に当てはめて考えると、子どもたちが夥しい数のシンスポ画像や情報に繰り返し触れることは非常に懸念されます。ソーシャルメディアのアルゴリズムによってこうしたイメージが増幅されると、若者の標準体重についての考え方が歪められ、「がりがりに痩せることだけが唯一合理的で魅力的な方法だ」と誤解してしまう危険性があります。日本の若者も、K-POPファンとしてこうしたコンテンツに触れる機会が多く、無意識のうちにその影響を受けてしまう可能性があります。
アイドル界だけではない韓国社会の痩身圧力:マッチング事情
目標体重を設定しているのはK-POPのマネジメント会社だけではありません。韓国では、恋愛関係においても体重が重要な基準とされる文化が見られます。1000社を超える韓国の恋愛・結婚マッチング会社が、女性顧客に対して理想の体重範囲を公然と提示しています。これらのパートナー紹介サービスは韓国の中流階級の独身者に長く利用されており、その広告は地下鉄の車両内などでも頻繁に見かけることができます。
特に、韓国で最も歴史があり評価の高い結婚相談所の一つである〈ソヌ〉は、顧客の「価値」を数値化する独自の「配偶者インデックス」を作成しており、その評価基準には外見、学歴、経済力などと並んで体型(体重)が含まれています。このように、痩せていることが個人の価値と結びつけられる社会的な圧力は、エンターテイメント業界を超えて韓国社会全体に根深く存在しているのです。
まとめ:日本の若者が知るべきリスク
K-POPの世界的成功は多くの人々に喜びや憧れを与えていますが、同時に韓国特有の極端な痩身志向という社会問題を伴っています。アイドルたちの体型への過剰な憧れは、オンライン上の危険な「シンスポ」文化と結びつき、ソーシャルメディアのアルゴリズムによって増幅され、特に脳が発達途上にある若者の健全な身体イメージや標準体重の認識を歪めるリスクがあります。さらに、このような痩身への圧力は、韓国の結婚・恋愛市場における体型基準といった形で、社会全体に根ざしています。
日本の若者たちがK-POPに熱狂する中で、こうした韓国の「ガリ痩せ」文化や、それに伴う過激なダイエット、摂食障害といった危険性にも目を向けることは不可欠です。憧れは健全なモチベーションになり得ますが、極端な目標設定や無理な模倣は心身の健康を損なう可能性があります。情報過多な現代において、何が健康的で何が危険なのかを正しく判断する力を養うことが、日本のK-POPファンにとって、そして全ての若者にとって求められています。