北朝鮮に「衝撃」 駆逐艦事故の責任者、ニュース映像から“消失”の異常事態

北朝鮮で相次いで報じられた衝撃的なニュースの中でも、特に注目を集めているのが、失敗した駆逐艦進水式の責任者が、国営メディアのニュース映像から姿を消しているという異例の報道です。さらに、金正恩総書記の娘であるジュエ氏とみられる人物の突然の外交の場への登場も報じられました。これら北朝鮮での立て続けの「異変」は何を意味するのでしょうか。『コリア・レポート』編集長・辺真一氏の解説を中心に詳報します。

駆逐艦事故の経緯と異例の素早い修復

2025年5月21日、北朝鮮で行われた駆逐艦の進水式において、艦が転覆するという事故が発生しました。この事故を受けて、造船所の所長を含む責任者らが一時拘束されたと報じられています。異例だったのは、この事故からわずか3週間後の同年6月12日には、やり直しの進水式が成功裏に行われたことです。金正恩総書記はこの迅速な修復を高く評価し、関係者への感謝の言葉を述べたと伝えられています。

転覆事故から3週間で修復され、再び進水式を行った駆逐艦転覆事故から3週間で修復され、再び進水式を行った駆逐艦

責任者2人が国営テレビ映像から「消失」

事故後の報道で特に衝撃を与えたのが、国営メディアの映像から事故責任者とみられる人物たちの姿が消されたことです。米国の北朝鮮専門メディア『NKニュース』は、2025年3月に朝鮮中央テレビで放送された、金総書記が問題の造船所を視察する場面の映像を分析。放送当時には映っていた海軍司令官と造船所所長が、同年6月13日に改めて放送された同じ映像からは消去されていたと報じました。「2人の姿が消された」というこの事態は、金正恩総書記の叔父である張成沢氏が2013年に処刑されて以降、初めてのことだとされています。

北朝鮮メディアの映像から姿を消した海軍司令官と造船所所長北朝鮮メディアの映像から姿を消した海軍司令官と造船所所長

専門家が分析する「映像削除」の異常な意味

この「映像からの消失」について、『コリア・レポート』編集長である辺真一氏は、「北朝鮮の幹部が姿を消すような加工がされるのは、犯罪者を報道するわけにはいかないからだ」と分析しています。幹部や側近は金総書記の近くにいることが多いため、金総書記が登場する場面を使用する必要がある場合に、仕方なく姿を消すという手法が取られる可能性があると説明しました。

北朝鮮情勢について分析を行うコリア・レポート編集長 辺真一氏北朝鮮情勢について分析を行うコリア・レポート編集長 辺真一氏

辺氏は当初、今回の駆逐艦事故の責任者らが映像から消されるほどの厳しい処分を受けるとは予測していなかったと述べ、特に海軍司令官については意外だったとしています。この海軍司令官は過去にも2回更迭され、その度に復帰している人物だと言い、「今回、3度目で、また不死鳥のように甦るかどうか、個人的には興味がある」と注視しています。

今回の映像削除が、一時的な「お仕置き」の期間なのか、あるいはより厳しい「粛清」を意味するのかについては、「『お仕置き』の期間というのが現実的」としつつも、「ただ、『映像から消える』というのは、尋常じゃない」と指摘。これまでのパターンでは、別の役職への異動や軍の階級の格下げなどが一般的であり、「映像からの消失」が持つ異常性を強調しました。

北朝鮮の造船所で発生した駆逐艦事故の様子北朝鮮の造船所で発生した駆逐艦事故の様子

今回の駆逐艦事故に関わる責任者の映像からの消失は、単なる人事異動や降格とは異なる、より深刻な事態を示唆している可能性があり、北朝鮮国内での権力構造や規律執行のあり方に異常が生じていることをうかがわせる出来事として、今後の動向が注目されます。

参考文献