トランプ政権の政策転換が確実、大型減税と社会保障費削減へ

大型減税を含むドナルド・トランプ前米大統領の主要政策を盛り込んだ法案の成立が確実となり、バイデン前政権下で重視された環境・福祉政策からの大幅な転換が見込まれています。電気自動車(EV)購入支援策は早期に打ち切られ、低所得者向け医療保険など社会保障費も大きく削減される方針です。この政策変更は、米国の内政にとどまらず、世界の政治・経済情勢にも影響を与える可能性があります。

主要政策の転換点

EV優遇策の打ち切り

トランプ氏はアイオワ州での演説で、現在のEV優遇策を「新たなグリーン詐欺」「義務化はバカげている」と強く批判しました。現在、米政府はEV購入者に対し最大7500ドル(約108万円)の税控除を提供しており、これはバイデン前政権が2022年8月に成立させた大型歳出法案の目玉であり、当初は2032年まで継続予定でした。しかし、今回成立が確実となった法案では、この優遇策が9月末に前倒しで終了されることになりました。

アイオワ州で演説するトランプ大統領。EV優遇策を批判。アイオワ州で演説するトランプ大統領。EV優遇策を批判。

米調査会社によると、米国のEV新車価格平均は5万7700ドルで、ガソリン車(4万8100ドル)より約9000ドル高価です。税控除は価格差を縮小し、EV普及に貢献してきましたが、これがなくなれば普及に急ブレーキがかかるのは避けられません。米国の新車販売におけるEVの割合は1割未満にとどまる一方、中国はBYDなどの地場メーカーが攻勢をかけています。フォードのジム・ファーリー最高経営責任者など米大手自動車メーカーは中国との競争に強い危機感を抱いており、トランプ政権下の政策が米国メーカーのEV開発に影響を与える可能性も指摘されています。

気候変動対策の後退

「気候変動対策」に対するトランプ氏の嫌悪感は政策にも明確に表れています。新法案では、太陽光・風力発電所建設企業への税額控除受付期間を短縮する一方、石油、天然ガス、石炭の採掘に関する優遇措置を設けるなど、気候変動対策に逆行する内容が盛り込まれました。

社会保障費の削減と学生ローン

社会保障費への大幅な削減も特徴の一つです。歳出カットの一環として、低所得者や高齢者向けの公的医療保険制度の受給資格が厳格化されます。これにより大量の無保険者が生まれる懸念があり、一部の共和党議員からも強い反発が出て、法案成立が一時危ぶまれるほどでした。

米国で社会問題となっている連邦政府の学生ローンについても、バイデン前政権が導入した返済負担の緩和措置が縮小されます。

重視される分野と財政への影響

国境警備・国防予算の積み増し

一方で、トランプ政権が重視する国境警備の強化や国防にかかる予算は積み増しされており、まさに「トランプ色」が鮮明に打ち出されています。

債務上限の引き上げ

また、法案には連邦政府の借金上限額である「債務上限」を、現在の36.1兆ドルから5兆ドル引き上げることが盛り込まれています。これにより、債務上限到達による政府の追加借り入れ不能や米国債の債務不履行(デフォルト)に陥る恐れは当面遠のくことになります。

結論

今回成立が確実となった法案は、トランプ前大統領の政策思想を強く反映しており、バイデン政権の重点分野であったEV普及促進や気候変動対策、社会保障、学生ローン支援などを後退させる一方、大型減税や国境警備、国防を優先するものです。これらの政策変更は、米国内の経済構造や社会保障制度に大きな影響を与えるだけでなく、世界のエネルギー政策や国際競争の行方にも波紋を広げると見られます。債務上限の引き上げは当面の財政リスクを回避する一方で、長期的な財政健全化への課題を残すことになります。