ドジャース戦でアメリカ国歌をスペイン語で歌った歌手Nezza、その背景にある「抗議」の意思

米大リーグ(MLB)ロサンゼルス・ドジャースの試合で、アメリカ国歌がスペイン語で斉唱されたことが大きな話題を呼んでいる。2024年6月14日に行われたサンフランシスコ・ジャイアンツ戦で国歌斉唱を務めたアメリカ人歌手Nezza(32)のパフォーマンスを捉えた動画は、瞬く間に拡散し、約1400万回再生される注目を集めている。この異例の国歌斉唱の背景には、アメリカ国内の緊迫した社会情勢に対するNezzaの強い意思表示があった。

コロンビアとドミニカ共和国にルーツを持つNezzaは、試合の2週間前にドジャース側に「英語とスペイン語を混ぜて歌ってもいいか」と事前に打診していた。ドジャース側から明確な拒否はなかったという。しかし、試合当日が近づくにつれて、Nezzaの考えは変わった。ロサンゼルスを含む全米各地で移民関税執行局(ICE)による移民摘発が相次いでおり、多くのラテンアメリカ系移民が不安な状況に置かれていた。この状況を受け、NezzaはCNNに対し、抗議の意を込めてアメリカ国歌をスペイン語のみで歌うことを決断したと明かしている。

Nezzaは自身のTikTokに、試合当日、ドジャースのスタッフから「国歌を英語で歌ってほしいと表明しています。それがあなたに伝わっているかどうかちょっとわからなくて…」と指示を受ける様子を捉えた動画を投稿した。この言葉に動揺を隠せない様子のNezzaの映像は、その後、彼女がドジャースタジアムのグラウンドで力強くスペイン語の国歌を歌うシーンに切り替わる。動画には「それでも、スペイン語で歌い切りました」というテロップが添えられ、Nezzaはキャプションで「私の大切な人々へ。私はあなたたちのそばにいます」とスペイン語と英語でメッセージを送った。

アメリカ大リーグ、ドジャース戦でアメリカ国歌を歌う歌手Nezza。アメリカ大リーグ、ドジャース戦でアメリカ国歌を歌う歌手Nezza。

パフォーマンス後、Nezzaは改めてTikTokで自身の行動への思いを語った。彼女によれば、アメリカ国歌のスペイン語版は、フランクリン・ルーズベルト大統領の「グッド・ネイバー政策」に基づき、1945年に発表され、現在も公式に認められている唯一のスペイン語版だという。Nezzaは、LAでこれほど大規模な移民摘発が行われていることに衝撃を受け、「『スペイン語の国家を歌ってはいけない』とドジャース関係者に言われたとき、とても信じられませんでした」と当時の心境を吐露した。しかし、「”私の大切な人々”のために、自分の意思を貫かねばと思ったのです」と、自らのルーツであるラテンアメリカ系移民コミュニティへの連帯を示すため、指示に反してでもスペイン語で歌うことを選んだ理由を説明した。「自分の行動を誇りに思います。なぜなら、私の両親もラテンアメリカからの移民だからです」と、自身のアイデンティティと信念に基づく行動であったことを強調した。

この出来事は、スポーツイベントにおける国家の役割、言語の多様性、そして現代アメリカにおける移民問題という、複数の社会的なテーマを浮き彫りにした。Nezzaのスペイン語による国歌斉唱は、単なるパフォーマンスではなく、抑圧されていると感じる人々への連帯と、自身の文化・言語への誇りを示す強い政治的・社会的メッセージとして、多くの人々の心を揺さぶっている。

参考文献

  • CNN および Nezza の TikTok 投稿に基づく