露アゼル対立深刻化 治安当局の捜査、旅客機墜落問題が背景に

ロシアと旧ソ連の友好国であるアゼルバイジャンの間で、対立が急速に深まっている。このロシア・アゼルバイジャン対立の発端となったのは、ロシア治安当局による捜査中のアゼルバイジャン人容疑者2人の死亡事案だ。加えて、昨年12月に発生したアゼルバイジャン旅客機墜落を巡るロシア側の対応も、アゼル側の対露不信感を募らせる要因となっている。こうした背景のもと、アゼルバイジャン側はロシア人記者らを拘束するなど、「報復」ともみられる動きに出ており、両国関係の悪化が長期化する懸念が指摘されている。

対立の発端となった事案

事件は6月27日に発生した。ロシア治安当局が、過去の殺人事件に関連し、中部エカテリンブルクで関係先の捜索を実施。この際、ロシア国籍を持つ複数のアゼルバイジャン人が拘束され、その過程で容疑者2人が死亡した。

露連邦捜査委員会によると、死亡した容疑者らは2001年から2011年にかけて起きた2件の殺人事件などに関与したとされる。ロシア通信の報道によれば、7月2日までに計8人が拘束されている。

アゼルバイジャン側の反発と「報復」措置

同胞2人の死亡を受け、アゼルバイジャン外務省は6月28日、ロシアの臨時代理大使を召喚し、厳重に抗議した。

これに続き、アゼルバイジャン議会は6月29日、ロシア連邦議会との会合への参加中止を公表。「アゼルバイジャン人に対する殺人や暴力行為への対応」として、文化省も国内でのロシア関連の文化行事を全て中止すると発表した。

さらに、アゼルバイジャン治安当局は6月30日、首都バクーに所在するロシア国営メディア「スプートニク・アゼルバイジャン」の事務所を捜索した。編集長や記者ら7人が、詐欺や違法な企業活動といった容疑で拘束される事態となった。

アゼルバイジャン検察当局は7月2日、6月に死亡した2人の死因について、複数の外傷などによるショック死であったと発表。非人道的な扱いは国際条約違反にあたると強く指摘し、「ロシア国内におけるアゼルバイジャン系住民の権利が侵害されている」と訴えた。

ロシア側の反応と長期化する懸念

ロシア外務省は7月1日、アゼルバイジャンの駐露大使を召喚し、一連のアゼルバイジャン側の対応に抗議すると共に、拘束された編集長らの即時解放を要求した。また、エカテリンブルクでの死亡事案はあくまで犯罪捜査の一環であったことを強調した。

これに対し、アゼルバイジャン外務省も7月2日、改めてロシア大使を召喚。ロシア側の対応への抗議を伝え、ロシア人記者らの拘束は「法律に従って行われた」と改めて主張した。

背景にある旅客機墜落問題

両国間の根深い火種となっているのが、昨年12月に発生したアゼルバイジャン旅客機の墜落事故だ。アゼルバイジャン側は、ロシア軍の防空システムによる誤射の可能性を強く主張している。

ロシア側は、墜落地点付近でロシア軍の防空システムがウクライナの無人機を迎撃していた事実は認めているものの、アゼルバイジャン機への誤射については否定している。

アゼルバイジャンのアリエフ大統領は、事故の責任の所在を明確にするようロシア側に繰り返し求めたが、ロシア側は具体的な対応を避け、この問題は現在も棚上げされたままとなっている。旅客機墜落以降、両国関係は急速に悪化。アリエフ大統領は、ロシアから毎年招待されていた今年5月のモスクワでの対ドイツ戦勝記念式典への出席も見送った。

ロシアとの対立を巡り記者会見を行うアゼルバイジャンのアリエフ大統領。ロシアとの対立を巡り記者会見を行うアゼルバイジャンのアリエフ大統領。

アゼルバイジャン検察当局によると、旅客機墜落の原因調査はカザフスタン当局と協力して進められており、近く結果が公表される見通しだという。これは、ロシア側の責任を再び追求する構えの表れとみられている。

ロシア国内でのアゼルバイジャン人死亡事案と、それに続くアゼルバイジャンによるロシア人記者らの拘束は、かねてから旅客機墜落問題で冷え込んでいた両国関係をさらに悪化させた。アゼルバイジャン側は人権侵害を訴え、ロシア側は捜査の正当性や記者の解放を求めるなど、双方一歩も引かない姿勢を見せている。旅客機墜落調査の結果公表が近づくにつれ、この対立はさらに新たな局面を迎える可能性もある。緊迫した状況は当面解消されず、両国間の関係悪化が長期化する恐れも否定できない。

【出典】毎日新聞(Yahoo!ニュースより)