米メディケイド削減案、地方医療への打撃に懸念拡大 トランプ政権の大型減税影響

トランプ米大統領肝煎りの大型減税関連法を巡り、低所得者向け医療制度である「メディケイド」の予算削減が、米国の地方医療システムに壊滅的な打撃を与えるとの懸念が急速に高まっている。「われわれは危機に陥る」との米病院団体の悲鳴も聞かれる状況だ。来年秋の中間選挙を控え、この地方医療削減問題は、政権を支える与党・共和党にとって大きな足かせとなりかねない状況となっている。

南部ケンタッキー州のアンディ・ベシア知事(民主党)は今月6日、米CNNテレビのインタビューに応じ、この問題に対する強い危機感を表明。「米国の地方にとって、顔をまともに殴られるようなものだ」と語った。

削減案の内容と影響規模

大型減税関連法では、減税や国境警備対策の財源を捻出するため、メディケイドの受給資格を厳格化する措置が盛り込まれた。具体的には、受給者に対して月80時間の労働要件設定などが課される。これにより、メディケイドの予算は今後約10年間で1兆ドル(約145兆円)以上削減される見通しだ。ある試算によれば、この削減により全米で1180万人が医療保険を失い、無保険者となる可能性がある。

医療情報サイト「KFF」のデータによると、米国の地方部では住民の4人に1人がメディケイドに依存している現状がある。ベシア知事は自身の州の具体的な影響を挙げ、「ケンタッキー州だけで20万人が医療保険を失い、2万人の医療関係者が職を失うだろう。地方の病院では、収入の4割から5割がメディケイドに依存しており、これは病院の運営そのものに関わる問題だ」と窮状を訴えた。

米南部ケンタッキー州のアンディ・ベシア知事がメディケイド削減への懸念を表明する様子米南部ケンタッキー州のアンディ・ベシア知事がメディケイド削減への懸念を表明する様子

双方の立場と政治的背景

一方、スティーブン・ムニューシン財務長官はCNNに対し、メディケイド削減の正当性を主張。「メディケイドは本来、妊婦や障害者、14歳未満の子供を抱えた家庭といった社会的弱者向けのものだ」と強調した。続けて、「健常者は社会的弱者ではなく、彼らに対する労働要件設定は世論の支持も高い」と述べ、法案への理解を求めた。

トランプ大統領は3日の演説で、大型減税関連法について「中間選挙運動で使える素晴らしい成果だ。無駄な支出は削減される」と改めて擁護した。しかし、この法案を巡っては、共和党内からも異論が噴出し、上下両院ともに僅差での可決であったことが、党内の意見の分断を示唆している。今後、政権与党が有権者に対してこの法律の意義をどのように説明し、理解を得るかが、「次の政治的なテスト」になると米紙は指摘している。

メディケイド削減が地方医療に与える現実的な打撃と、それに対する政権側の主張の隔たりは大きく、この問題が今後、中間選挙に向けてどのような影響を与えるか、注目される。

参考文献

  • 米CNNテレビ インタビュー (Governor Beshear, Secretary Mnuchin発言)
  • 医療情報サイト KFF (地方部のメディケイド依存率データ)
  • EPA時事通信 (写真出典元)
  • 各種米紙報道 (トランプ大統領発言、政治的背景に関する指摘)