日本一のYouTuberは日本人?古市憲寿氏が語る「知られざるグローバル人気」とその理由

日本のYouTube界で最も登録者数が多い人物を知っているだろうか。多くの人がヒカキンやはじめしゃちょーの名前を思い浮かべるかもしれないが、実は正解は「ISSEI(いっせい)」さんだ。彼の登録者数は驚異の6200万人を超え、世界のYouTuberの中でもトップ50に入るほどの人気を誇る。しかし、日本の多くの人々、特に週刊新潮の読者には、彼の存在があまり知られていないのが現状だ。その理由は、彼の動画視聴者の大半が海外におり、日本語を使わない非言語コンテンツを発信していることにある。

グローバルYouTuber ISSEIについて論じる社会学者、古市憲寿氏グローバルYouTuber ISSEIについて論じる社会学者、古市憲寿氏

ISSEIの驚異的な世界的人気とその背景

ISSEIさんの動画は、体を張ったドタバタコメディーが中心だ。言語に依存しない視覚的な面白さが、インドやインドネシア、米国、ブラジルといった人口の多い国々を中心に爆発的な人気を博している。一方、日本からの視聴率はわずか1%程度にとどまるという。彼は2021年に本格的な動画投稿を開始し、2023年には登録者数1000万人を突破、今年初めには5000万人を超えるなど、着実にファンを増やしてきた。日本国内だけをターゲットにしていたら、登録者数6200万人という数字は到底達成できないだろう。これは、紅白歌合戦のような国民的番組でさえ、現在の視聴者数がこれを大きく下回ることからも明らかだ。比較すると、日本語コンテンツの代表格であるヒカキンTVの登録者数は1900万人であり、日本語圏としては驚異的な数字だが、人口約14.6億人のインドに、インドネシア、米国、ブラジルを加えた23億人という世界を相手にするISSEIさんとは、母数が圧倒的に違うのだ。日本語話者だけを対象としたコンテンツが、いかに国内で人気を博しても、世界の壁を越えることの難しさを示している。ISSEIさんのように非言語で表現するスタイルは、かつて世界で話題になったピコ太郎氏のPPAPにも通じるものがあるかもしれない。

世界に広がる日本のコンテンツをイメージしたイラスト世界に広がる日本のコンテンツをイメージしたイラスト

進化する自動翻訳技術と言語の壁

ISSEIさんのような非言語コンテンツ以外にも、日本国内ではあまり知られていないが海外で人気を博しているインフルエンサーは存在する。例えば、料理などの日本文化を英語で発信する元舞妓の「着物ママ」さんもその一人で、現在はアメリカを巡る「ウマミ・ツアー」で注目を集めているという。うまみソースという調味料がアメリカで人気なのも興味深い。

さて、現代は自動翻訳が急速に進歩している時代だ。YouTubeやポッドキャストでは、話者の声色やイントネーションを保ったまま、まるで本人がその言語で話しているかのように自動翻訳してくれる技術が実用化されつつある。これにより、日本語で作成したニュースや漫画、日本文化紹介といったコンテンツも、自動的に多言語化して世界に届けられる可能性が生まれている。歌声の翻訳も可能になり、将来的にJ-POPが英語やスペイン語版と同時公開される時代も遠くないだろう。

日本語コンテンツの特性とグローバル化の課題

しかし、自動翻訳だけで全ての作品が言語の壁を完璧に越えられるわけではない。日本語のコンテンツは、しばしば文脈依存型であり、暗黙の前提が多い。そのため、直訳だけでは伝わりにくい内容が多いのが実情だ。自動翻訳技術が文脈まで補完できるようになる可能性はあるが、音声翻訳の場合、その分、処理時間や情報量が増えるといった課題も伴うだろう。

まさに、週刊新潮の読者を対象に書かれた本エッセイのような日本語コンテンツは、世界から見れば極めてニッチな文脈に依拠している。これは、グローバルな老若男女が楽しめるISSEIさんの非言語動画とは対極にあると言える。当面の間は、音楽やISSEIさんのような非言語コンテンツが、言語の壁を越えて世界的な人気を獲得しやすい状況が続くのかもしれない。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)