参議院選挙の熱戦が続く中、石破茂首相がXに投稿した一枚の写真が思わぬ波紋を広げている。首相が応援演説で訪れた地方で食したとされる山盛りチャーシュー麺の写真だ。この投稿は一部のインターネットユーザーから厳しい批判を浴び、「国民が生活苦にあえぐ中で贅沢だ」といった声が上がっている。なぜこの写真が、国民の怒りの火種となってしまったのか。背景にある国民感情と経済状況について解説する。
石破首相の「美味しかったです」投稿とその反応
2025年7月5日、石破茂首相は自身のXアカウントに、新潟県長岡市で食べたというラーメンと餃子の写真を投稿した。写真には特に大きな、山盛りのチャーシューが乗ったラーメンが写っており、首相は「美味しかったです」とコメントを添えていた。この投稿に対し、瞬く間に批判的なコメントが殺到した。批判の多くは、物価高騰や実質賃金の低下に苦しむ国民の生活実感との乖離を指摘するものだった。「庶民は贅沢できないのに」「金持ちだけが良い思いをしているのか」など、経済格差や生活苦に対する国民の不満が、首相の食事の写真に向けられた形だ。
国民の批判を呼んだ石破茂首相のX投稿にある山盛りチャーシュー麺と餃子
ラーメンへの批判ではない、政権への根深い不満
元経済誌プレジデント編集長で作家の小倉健一氏は、この批判の根源は単なる個人的な食事への嫌悪ではないと分析する。ラーメン店で何を注文するかは個人の自由であり、政治家が食事の画像を投稿する行為自体に問題があるわけではない。国民の怒りは、目の前の一杯のラーメンそのものではなく、石破首相が率いる政権、そして政治そのものに対する根深い不満や不信感の表れであると指摘する。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」という言葉のように、政権運営や国民の声への対応に対する蓄積された不満が、チャーシュー麺という些細な事象を「怒りの発火点」に変えてしまったのだ。国民の叫びが政権に届いていないと感じる不満が、こうした形で表面化していると言える。
国民生活を圧迫する実質賃金の低下
国民の不満の根底には、経済的な苦境がある。特に深刻なのは、実質賃金の継続的な低下だ。実質賃金とは、物価変動を加味した上での賃金の購買力を示す指標であり、この数値が低下するということは、たとえ名目上の賃金が上昇しても、物価上昇率に追いつかず、国民の実際の生活が苦しくなっていることを意味する。
石破政権は名目賃金の引き上げを経済対策の成果として強調することがある。しかし、現実には消費者物価指数の高騰が続いており、賃金上昇率を物価上昇率が上回る状況が長期間継続している。これにより、国民の手元に残るお金、すなわち購買力は減少し続けているのだ。2025年5月には、実質賃金の減少幅が2.9%に拡大し、これで5カ月連続のマイナスを記録した。こうした厳しい経済状況下にある国民感情を理解せずに行われたと受け取られた首相の投稿が、反感を買う結果となったのである。
まとめ
石破茂首相のチャーシュー麺投稿に対する批判は、一見個人的な食事風景への不適切な反応に見えるかもしれない。しかしその裏側には、物価高騰と実質賃金低下にあえぐ国民の経済的な苦境と、それに対する政権への根深い不満が存在する。首相の投稿は、こうした国民の「生活苦」という叫びが政権に届いていない、あるいは軽視されていると感じた人々にとって、「贅沢」の象徴として映り、怒りを爆発させるトリガーとなった。参院選を前に、政治家と国民生活の間の乖離が改めて浮き彫りになった出来事と言える。