7月に入り、東京有数の観光地である浅草寺雷門前には異変が起きている。土日平日問わず多くの観光客で賑わうはずの場所が、人影もまばらな状態だ。この急激な変化の背景には、ある「予言」の広がりがあるという。特にアジア圏からの訪日客が激減しており、観光業界に深刻な影響を与えている。
閑散とした浅草寺雷門。観光客が激減した様子を示す
訪日観光客を激減させた「大災害予言」の拡散
この異変の原因として指摘されているのが、「7月5日に日本で大災害が起きる」という予言だ。漫画家たつき諒氏の著書『私が見た未来 完全版』(飛鳥新社)で語られた“予知夢”に端を発するこの予言は、1999年の原著に「大災害は2011年3月」と記されていたことが東日本大震災を「当てた」とされ、その信憑性が議論を呼んだ。今回の7月5日の予言も、デマとして片付けられず独り歩きし、特に中国語や韓国語に翻訳されてSNSなどを通じてアジア各国に急速に拡散した。予言の内容は、〈突然、日本とフィリピンの中間あたりの海底がボコンと破裂〉し、日本の太平洋側などに〈東日本大震災の3倍〉もの巨大な波が押し寄せるというものであり、多くの訪日予定者に不安を与え、渡航を控える動きに繋がったとみられる。
浅草の観光現場で起きている現実の影響
浅草の観光関係者は、この予言の影響による訪日客の減少を肌で感じている。浅草商店連合会の関係者は「あの騒動になった7月の予言のせいだよ。中国や台湾から来る人が減っちゃってるんだ」とため息をつき、困惑の色を隠せない。
浅草名物の人力車業界もまた、深刻な打撃を受けている。ある20代の車夫は、現状を「7月に入ってから本当にガラガラです」と語る。「普段なら1日で(車夫)1人当たり、10組ぐらいのお客様を乗せているんですが、今は3組程度にまで落ち込みました。お客様の6〜7割を占めていた中国や台湾の方がそっくりいなくなってしまった感じです」。7割減という厳しい稼働状況は、人力車夫にとってまさに「火の車」だ。「何とかなりませんかねぇ」と力なく笑う彼の言葉に、観光現場の窮状が滲む。客待ちの人力車が寂しげに列をなしている光景は、以前の賑わいからは想像もつかない。
予言の変容と収束しない影響
この予言騒動は、そう簡単に収束しそうにない様相を見せている。たつき氏自身は、先月出版した自伝『天使の遺言』(文芸社)の中で、「7月5日にピンポイントで何かが起きるというわけではない」と一部修正を示唆したものの、「7月の大災害」の可能性そのものを取り下げたわけではない。
さらに、インターネット上ではたつき氏の予言を検証する動画チャンネルなどが存在し、その中で「(災害が)起きるのは7月ではなく8月。場所は九州」といった、予言とは異なる新たな説までが登場し、数十万回近く再生されるなど拡散が続いている。これらの新たな情報も、中国や台湾、韓国を含むアジア各国のSNSを通じて広まっているはずだと、あるネットメディア記者は指摘する。
結論:デマが現実の経済的「大惨事」を招く
本来であれば「トンデモ」として一笑に付されるべき性質の予言が、インターネットとSNSの時代において国境を越えて拡散し、日本の主要な観光地である浅草に現実の経済的な「大惨事」を招いている。予言自体の真偽はともかく、それが引き起こした社会的な不安と経済への影響は、無視できない問題として日本の観光業界に重くのしかかっている。
参考資料
「週刊新潮」2025年7月17日号 掲載
新潮社