地域移動への抵抗:なぜ日本人は地元を離れたがらないのか

日本人のパスポート保有率が他国と比較して低いという事実がある一方で、国内においても「自分の住む地域から出たくない」と考える人が少なくない。この現象は、海外旅行への消極性とは異なり、生活圏の移動そのものに対する抵抗感として現れている。特に地方部において、この傾向は顕著に見られる。長年東京に住み、2020年に佐賀県へ移住したネットニュース編集者である中川淳一郎氏が、自身の経験を通じて感じた地域移動への抵抗感について考察する。

国外移動と国内移動の比較

外務省の発表によると、2024年末時点での日本人のパスポート保有率は17.5%にとどまる。これは韓国の40%、アメリカの50%、台湾の60%といった数字と比べると著しく低い水準である。「日本国内で十分に快適なため、わざわざ治安や物価などのリスクを冒して海外に行く必要がない」という考え方は理解できる。しかし、ここで注目すべきは、国外はおろか、同じ日本国内の他地域への移動、特に生活拠点を移すことへの抵抗感である。

佐賀での実体験から見えた「地元志向」

筆者である中川氏は、佐賀県での約5年間の生活を通じて、地方に暮らす人々の間に生活拠点の移動に対する抵抗感が案外強いことを肌身で感じてきた。佐賀は福岡の隣県であり、福岡への通勤・通学は比較的容易で、東京と神奈川・埼玉・千葉のような関係性に例えられることもある。しかし、福岡から距離がある宮崎や熊本といった他県の出身者と話すと、「子供にはできれば県内にいてほしい。どうしても地元を出るなら、せめて九州最大の都市である福岡までにしてほしい」という親世代の願望を複数耳にしたという。

地域移動への抵抗:なぜ日本人は地元を離れたがらないのか

日本の地方、緑豊かな風景。地元での暮らしと地域移動への抵抗感を考えるイメージ。

この傾向は若者にも見られる。「福岡より遠くへは行きたくない」と話す若者たちに理由を尋ねると、多くが「実家や祖父母に何かあった時、福岡ならすぐに戻ってこられるから」と答える。また、「九州から出たことがないので、九州の外で暮らすのは怖い」という、未知の土地に対する漠然とした不安や抵抗感を抱く人も少なくないという。

他地域での類似する声

このような地域移動への抵抗感は、九州地方に限ったことではないようだ。中川氏は、東北地方や関西地方出身の人々からも、同様の「地元から出たくない」という気持ちや、家族が地元にいてほしいと願う声を聞いたことがあると述べている。これは、特定の地域性だけでなく、日本全体に共通する社会的な傾向の一つである可能性を示唆している。

まとめ

日本における地域移動への抵抗感は、単に海外旅行に行かないという話に留まらず、国内での生活圏の移転に対しても根強く存在していることが、筆者の経験や各地での聞き取りから浮かび上がる。特に地方においては、家族のそばにいたいという思いや、慣れない土地への不安が、若者を含む多くの人々を地元に留める要因となっている。この「地元志向」は、今後の日本の人口分布や地域活性化を考える上で無視できない社会的な要因と言えるだろう。

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