米国テキサス豪雨とトランプ政権の関税措置:日米関係への波紋

米国南部テキサス州を襲った記録的豪雨により、7月初旬に広範囲で発生した洪水は、現地当局によると死者129人以上、行方不明者150人以上という甚大な被害をもたらしました。特に被害が集中したカー郡では、女子サマーキャンプで多数の犠牲者が出たことも報じられています。この自然災害と、同時期に発表されたトランプ政権による新たな通商政策、特に日本への関税措置は、米国内外に大きな波紋を広げています。

米国テキサス州を襲った記録的豪雨

甚大な被害と政権の視察

7月3日から4日にかけて発生したテキサス州の洪水は、過去に例を見ない規模となりました。カー郡の「キャンプ・ミスティック」では、27人の少女が命を落とすという悲劇も起きています。トランプ大統領とメラニア夫人は11日、被災地であるカー郡を視察し、被害状況を確認しました。

予算削減と予報精度への懸念

今回の豪雨被害に関して、政権の予算削減が被害を拡大させた可能性が指摘されています。トランプ政権は、国立気象局(NWS)を監督する米海洋大気庁(NOAA)の年間予算約60億ドルの25%削減を打ち出し、NWSではすでに職員の約14%にあたる600人が削減されています。元政府高官や専門家は、この人員削減が洪水予報の精度低下を招き、避難や対策の遅れにつながった可能性があると警鐘を鳴らしています。ある気象学者は、「人手不足が予報や警報の重要な要素を見落とす状況を作り出したかもしれない」と述べています。

初動対応の遅れ

連邦緊急事態管理庁(FEMA)は即応体制を整えていたものの、初動対応が遅れたとの批判も出ています。これは、ノーム国土安全保障長官が導入した、10万ドル以上の支出に長官の事前承認を義務付ける規定が影響したとみられています。結果として、FEMAによる救助隊派遣の承認が洪水発生から72時間後まで遅れたと報じられています。警報・注意報の発出遅延や初動対応の不備について記者団に問われたトランプ氏は、「そのような質問をするのは極めて邪悪な人間だけだ」と感情的に反論しました。

テキサス州カー郡の洪水被害と救助活動テキサス州カー郡の洪水被害と救助活動

豪雨被害と地球温暖化の関連性

地球温暖化による降水量増加の指摘

一方で、欧州の研究チームは今回の洪水に関する暫定分析で、「地球温暖化により降水量が増加したことが、被害の深刻化につながった」との見解を発表しました。テキサス州における過去(1950~1986年)と現在の気候データを比較した結果、平均気温は1.5度上昇し、降水量は7%増加していることが確認されたといいます。

気候変動対策予算の削減

トランプ政権の2026年度予算案には、マイアミ大学のハリケーン研究部門を含む全米12以上の気象・気候関連施設への資金削減が盛り込まれています。気候変動対策予算全体では、約2億ドルの削減が計画されています。

トランプ政権による新たな関税措置の発表

8月1日発動の通告と各国への書簡

トランプ氏は7月8日、新たな関税措置について「日程の変更は一切なく、今後も延長や例外措置は認めない」とSNSに投稿し、8月1日に発動することを明言しました。世界各国との交渉が不調に終わる中、米政府は第1弾として14カ国に対し正式な関税改定書簡を送付しました。

日本・マレーシア、ブラジルへの通告

書簡送付先のうち、日本とマレーシアに対しては、現行の24%から25%への引き上げが通告されました。7月9日には、ブラジルを含む8カ国に対し追加書簡が発出されました。特に注目されたのはブラジルへの大幅な関税引き上げで、現行の10%から一挙に50%へと引き上げる方針が明らかになりました。これに対し、ブラジルのルラ大統領は「我々の国家主権に対する干渉や脅迫は受けない」と強く反発し、米国への報復関税を検討する姿勢を示しています。

トランプ大統領が関税措置について語る会見トランプ大統領が関税措置について語る会見

日本への25%関税通告とその波紋

トランプ氏からの書簡内容と政府・経済界の反応

トランプ氏は、日本を含む主要貿易国に対し新たな関税措置を正式に通告し、日本に向けた書簡では「日本には群を抜いて世界一の市場であり、並外れた米国経済にぜひ、ご参入いただきたい」と記した上で、8月1日から米国に輸出されるすべての日本製品に25%の関税を課す方針を表明しました。25%という税率については、「貴国との貿易赤字を解消する上で必要な数値をはるかに下回ることをご理解いただきたい」と書簡に記されていました。このトランプ氏からの書簡は、日本政府および経済界の間で強い反発と警戒感を広げています。

自民党・経団連からの懸念表明

自民党の小野寺五典政調会長は8日、自身のSNSで「今回の発表は、外交上も極めて非礼な対応ではないか。正直、強い憤りを持っている」と苦言を呈しました。経団連の筒井義信会長も10日、「日本経済への影響はこれまで以上の規模を想定している」と警鐘を鳴らし、実質GDP成長率については「年度ベースで1%前後の低下が想定される」との見解を示しています。

日本の経済関係者が日米貿易摩擦について会合日本の経済関係者が日米貿易摩擦について会合

日本政府の対抗姿勢と米国務長官の見解

石破氏の「国益をかけた戦い」論

トランプ氏が通告した対日25%関税をめぐり、日本政府も強い反発姿勢を見せています。石破氏は9日、千葉県船橋市での街頭演説で、「(米国との関税交渉は)国益をかけた戦いだ。なめられてたまるか」と語気を強めました。10日には、BSフジの報道番組に出演し、「米国依存からもっと自立するよう努力しなければならない」「いっぱい頼っているのだから言うことを聞けよということならば、侮ってもらっては困る」と述べ、従属的な対米構造からの脱却を強調しました。

米国務長官ルビオ氏の評価

これに対し、ルビオ米国務長官は11日、「石破総理の発言は否定的にとらえるべきではない」と述べ、問題視しない考えを示しました。また、「そこにドラマや分裂を求めている人はそうすべきではない。日米関係は非常に強固だというのが真実だ」と述べ、日米関係の揺るぎなさを強調しました。さらに、米国が日本に防衛費を大幅増額するよう圧力をかけているという報道にも反論し、「米国は日本に特定の能力に投資するよう奨励しているものの、これは要求には当たらない」と述べ、あくまで推奨であるとの立場を示しました。

米国では記録的な自然災害とその対応、そして国際的には新たな通商摩擦という二つの大きな課題に直面しています。特に後者は、日本を含む多くの国に直接的な影響を及ぼし、今後の世界経済や外交関係の行方に不確実性をもたらしています。トランプ政権の政策が、国内の防災体制や気候変動対策、さらには長年の同盟国である日本との関係にどのような長期的な影響を与えるのか、引き続き注視が必要です。

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