米陸軍PAC3 MSE調達4倍増、英仏が核・防衛協力強化 – 欧州安保の動き

米陸軍が2026会計年度のPAC3 MSE迎撃ミサイル調達を大幅に増やす計画を発表し、欧州ではフランスと英国が核抑止力を含む防衛協力を強化する合意に至った。これらの動きは、現在の地政学的環境における各国の安全保障戦略と、急速に変化する欧州の安全保障情勢への対応を示すものだ。特に、ウクライナ侵攻を背景とした弾薬不足への対応や、米国への安全保障依存度軽減への意識が反映されている。

米陸軍、PAC3 MSEミサイル調達を大幅増強

米陸軍は2026会計年度の予算要求で、PAC3 MSE迎撃ミサイル233発の調達を求めた。これは2025会計年度の要求数(214発)から約4倍の大幅増となる。今回の増強要求は、現在の作戦地域で顕在化している弾薬不足問題への対応策の一つと見られている。要求された233発のうち、130発は基本予算で、103発は海外作戦費用(OCO)予算に計上された。さらに、義務調整前の権限で96発を追加支援できるよう3億6600万ドルの予算が要請されている。海外作戦費用のうち3億9630万ドルは、ロシアによるウクライナ侵攻に対抗するための「大西洋決意作戦(Operation Atlantic Resolve)」に割り当てられている。米国防総省は、この作戦に基づき、2023年度に252発、24年度に230発、25年度に214発のPAC3 MSEミサイルを供給してきた実績がある。

米陸軍が2026会計年度に調達を増やすPAC3 MSE迎撃ミサイル(ロッキードマーティン製)米陸軍が2026会計年度に調達を増やすPAC3 MSE迎撃ミサイル(ロッキードマーティン製)

ロッキードマーティンが製造するPAC3 MSEミサイルの生産には34〜36カ月を要し、年間最大生産能力は550発とされる。米国の武器在庫再評価が進む中で、PAC3 MSEの調達拡大が進行している状況だ。分析家たちは、調達目標を4倍に増やした今回の措置を、弾薬能力の不足を補うための戦略的な調整と解釈している。最近では、2025年6月にロッキードマーティンが、より優れた標的対応能力を持つ新しい追跡アルゴリズムを搭載したPAC3 MSEミサイルの飛行試験に成功した。この試験発射は、最新のソフトウェアおよび探索器アルゴリズムのアップグレードの有効性を検証することを目的とし、実際の戦闘条件に近い環境で巡航ミサイルのような空中からの脅威を標的として実施された。今回の試験の主な成果は、複雑な作戦環境における目標探知および追跡性能を向上させるアップグレードされた探索器アルゴリズムの実装だ。PAC3 MSE探索器は、高解像度の目標物イメージ処理と自律追跡機能を提供する能動Kaバンドレーダーシステムである。

英仏、欧州核抑止力と防衛協力を深化

欧州で独自に核武装するフランスと英国は、大陸に対する主な脅威に対応するため、核兵器保有量の調整について合意した。この決定は、7月10日にエマニュエル・マクロン仏大統領とキア・スターマー英首相が署名した一連の国防協定の一環として発表された。今回の協定に基づき、核兵器の調整と両国間の核研究協力はより一層強化される予定だが、両国の核兵器が完全に統合されるわけではない点が重要だ。英国政府は報道資料を通じて、「両国のそれぞれの抑止力は独立的だが、調整が可能」であると明確にした。この考え方は、二つの核戦力の運用的な統合ではなく、政治的な調整を達成することを目標としている。

今回の合意は、欧州指導者が米国への安全保障依存を減らそうと再軍備を進める、安全保障環境の急変の中で出てきた。新しい協定の正確な内容は現時点では公開されていないが、英国政府は、欧州に対する極度の脅威が発生した場合の両国の対応について明記されていると明らかにしている。マクロン大統領のロンドン訪問は、新しい軍事協定の連鎖締結を促進した。これには、ストームシャドウ/SCALP巡航ミサイルに代わる新たな巡航ミサイルの共同開発、先端ドローン対応兵器の開発協力、英国空軍向けの次世代超長距離空対空ミサイルの共同開発などが含まれる。また、今回の会談では、2010年に締結された国防協力枠組みであるランカスターハウス協定の改定案が発表された。改定案には、宇宙・サイバーといった新しい分野での作戦部隊統合を目標とする内容が追加された。防衛協定には産業分野も含まれており、両政府は両国の軍事装備生産を加速するための産業協力体制を目指している。

まとめ

米陸軍のPAC3 MSEミサイル調達大幅増強は、現在の弾薬需要と将来の安全保障環境を見据えた戦略的調整であり、製造能力や技術進歩も踏まえつつ進められている。一方、フランスと英国による核抑止力を含む防衛協力の深化は、欧州が自立的な安全保障能力を高めようとする強い意志の表れと言える。これらの動きは、世界の政治・社会情勢が変化する中で、主要国が直面する安全保障上の課題への具体的な対応策として注目される。