日本のメーカーがインドへの投資を加速させている。世界最多の14億人超の人口を抱え、急速な経済成長が続くインドでは、内需の拡大が期待できるためだ。米国の関税政策により世界的に貿易の停滞が懸念される中、輸出への依存度が比較的低いインド経済の存在感が高まっている。
インド市場の魅力と米国関税の影響回避
三井住友銀行は最近、タイの首都バンコクで「インドビジネスセミナー」を開催した。米国の関税措置によるタイ経済の減速が見込まれる中、インドへの生産移転などを検討する企業が増えている背景がある。同銀行のインド事業部長は、インドは輸出の割合が大きくなく、米国の関税措置の影響が相対的に小さい点を強調し、参加した約130人の日本企業幹部が熱心に聞き入った。
日本総合研究所の分析によると、2024年のインドの国内総生産(GDP)に占める輸出の割合は21.2%で、アジア主要国・地域の中で中国に次いで2番目に低い水準にある。このことから、米国が関税を引き上げた場合でも、インド経済全体への直接的な打撃は限定的だと見られている。
個別企業の動きとしては、ホンダが約161億円を投じ、西部ビタラプールの二輪車工場を増強する計画を進めている。これにより、既存工場と合わせて2027年にはインドでの生産能力を現在の水準から1割以上多い年間700万台に拡大する見込みだ。スズキも2月にはインドで4番目の完成車工場の稼働を開始した。ダイキン工業も2030年までにエアコンの新工場を稼働させる計画がある。工場向けのコンベヤーなどを手掛けるダイフクは、今年4月にインド南部のハイデラバードで新工場の操業を始めた。同社社長は、内需が拡大しているインドでは安定した受注が見込めるため、思い切った投資判断が可能だと述べている。
インド南部ハイデラバードで操業開始したダイフクの新工場(2025年4月撮影)
高まるインド経済の存在感と今後の展望
国際通貨基金(IMF)は、インドの経済成長率が2025年から2030年にかけて毎年6%を超えると予測しており、その経済的な潜在力は国際的にも注目されている。この成長を見込み、欧米や韓国などの企業もインドへの進出や投資を加速させている。インド商工省のデータによれば、2024年の対内直接投資額は前年比28%増の531億ドル(約7.8兆円)に達した。インドの調査研究機関GTRIは、「米国の関税政策が、製造業分野におけるインドの地位をさらに高める可能性がある」との見方を示している。
しかし、今後の不確実性も存在する。現在進行中の米国とインドの間の関税交渉では、インドが米国製品に対する関税を引き下げる方向で進んでおり、これが将来的にインド国内の事業環境を変える可能性がある。第一生命経済研究所の主席エコノミストは、インドはこれまで輸入品に高関税を課し、外国企業に対して工場建設への補助金を支給するなどして国内生産を奨励してきたが、米印交渉の結果次第では、こうした政策の修正を迫られる可能性も指摘している。
日本企業によるインド投資の加速は、巨大な国内市場と堅調な経済成長、そして現在の米関税政策からの相対的な影響の小ささが主な推進力となっている。しかし、今後の米印間の関税交渉の行方次第では、インドの産業振興策に変更が生じる可能性もあり、今後の動向が注視される。
参照:国際通貨基金 (IMF)、インド商工省、日本総合研究所、第一生命経済研究所、他メディア報道