参政党のTBS『報道特集』への抗議、「抜け落ちた点がある」と元テレ朝法務部長が指摘

今月13日、参政党はTBS系『報道特集』の外国人政策に関する報道に対し、「選挙報道として著しく公平性・中立性を欠く」と批判する申入書を提出しました。これに対しTBSは14日、「高い公共性、公益性がある」と回答。参政党はこれを「本質的な問題点に一切触れない回答」として、BPO(放送倫理・番組向上機構)への申立意向を表明し、両者の対立が激化しています。この参政党の抗議について、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、「そもそも抜け落ちた点がある」と指摘しています。

参政党の抗議内容とその背景

参政党がTBS系『報道特集』に対して提出した抗議には、強い言葉が使われています。同党は申入書の中で、『報道特集』が参政党の外国人政策を正確に報道せず、誤導したと断じています。このような意図的に偏向された報道が許容されれば、日本の政治、そして民主主義の将来に深刻な影響を及ぼしかねないと主張。

[参政党のTBS『報道特集』への抗議、「抜け落ちた点がある」と元テレ朝法務部長が指摘元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が、参政党のTBS報道特集への抗議について語る]

さらに、参政党の神谷宗幣代表に対して以前から街頭で刺し殺すなどの脅迫が寄せられていることを明かした上で、一方的に党を批判的に描写する報道姿勢は、暴力を助長しかねないと述べています。ちょうど3年前には安倍晋三元総理が選挙演説中に銃撃され命を落とす事件があったことに触れ、民主主義における政治的言論活動を暴力から守る意識は社会全体で共有されるべきだと主張しています。

[参政党のTBS『報道特集』への抗議、「抜け落ちた点がある」と元テレ朝法務部長が指摘選挙演説会場に設置された金属探知機と厳重な警備の様子]

西脇弁護士が指摘する「抜け落ちた点」とは

しかし、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、参政党のこの抗議内容を分析し、ある重要な点が抜け落ちていると指摘します。それは、参政党が『報道特集』の放送内容のどの部分を「正確でなく誤導している」と考えているのか、その具体的な「事実」の指摘が抗議文に書かれていないという点です。

『報道特集』が示唆した参政党の「事実認識の誤り」

『報道特集』の放送では、参政党の神谷代表による「いい仕事に就けなかった外国人の方は、資格を取って来てもどこか逃げちゃうわけですね。そういう方が集団を作って万引きとかをやって、大きな犯罪が生まれています」「『お金がないから』って来て、『生活保護をすぐください』とかそんなもん、ない。お金がないなら帰ってって話ですよ」という発言を紹介しました。その上で、在留外国人数は増加傾向にあるものの、外国人犯罪の件数は減少傾向にあり、生活保護を受ける世帯に占める外国人の割合もわずかであるという「事実」を示し、参政党の主張の前提となる事実認識に疑問を呈しました。

また、参政党のある候補者が、博士課程の学生を支援する「次世代研究者挑戦的研究プログラム」について、「外国人の留学生には1人1000万円、お金がもらえる。日本の学生さんどうなのかと」と発言したことを紹介。この制度は、日本人、外国人に関係なく審査を通った優秀な学生に適用されるものであり、「外国人の留学生にはお金がもらえる」という制度ではないという「事実」を示しました。このように、『報道特集』は参政党が主張の土台とする「事実」の認識に誤りがあるのではないかと、具体的な事例を挙げて指摘しているのです。

西脇弁護士は、これに対して参政党が抗議するならば、『報道特集』の放送内容のうち「この点とこの点は誤報だ」と、具体的な「事実」について指摘することが不可欠なはずだと述べます。しかし、TBSに対する参政党の申入書には、「正確に報道せず、誤導した」という記載はあるものの、具体的にどの報道内容が正確でないのかという「事実」についての主張が、すっぽりと抜け落ちていると指摘しています。

参政党の反論:「政治的公平性」とBPO

参政党の申入書に代わりに書かれていたのは、『報道特集』を「偏向報道」と断じる主張でした。参政党は、番組に登場した関係者がすべて党に批判的な立場であり、擁護や理解を示す視点は一切紹介されなかったと主張しています。そして14日には、「政治的公平性を損なう報道に対して毅然と対応する」として、BPOへの申し立ての意向を表明しました。

しかし、「政治的公平性」の真の意味について、西脇弁護士は言及します。BPOは「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」と題する意見書において、既にその結論、すなわち政治的公平性とは特定の政党に常に等しい時間を割り当てることではなく、全体として公正な扱いをすることであるという見解を示しています。このBPOの見解を踏まえた議論が必要である可能性を示唆しています。

結論

参政党のTBS『報道特集』に対する抗議は、党の主張する「正確性の欠如」や「政治的公平性の問題」を訴えるものです。しかし、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、抗議の根拠となるべき具体的な「事実誤認」の指摘が欠けている点を指摘しており、これが抗議の本質的な弱点である可能性を示唆しています。また、「政治的公平性」についても、BPOが過去に示している見解を踏まえた冷静な議論が求められる状況です。この対立の行方は、今後のメディアと政治の関係、そして選挙報道のあり方にも影響を与える可能性があります。

参考文献