EU、対米報復関税の停止期間を延長:交渉優先も対抗措置を準備

欧州連合(EU)は7月14日、トランプ米政権による高関税政策を巡る動きに対し、米国産二輪車などへの報復関税の発動停止期間を、当初の期限であった同日から8月上旬まで延長することを明らかにしました。トランプ米大統領は7月12日、EUからの輸入品に8月1日から30%の関税を課す方針を一方的に表明しましたが、EU側は当面、対立の激化を避け、交渉を優先する姿勢を示しています。しかしながら、交渉が決裂する可能性に備え、対抗措置の具体的な内容についても加盟国間で取りまとめを急いでいる状況です。

欧州連合の交渉優先姿勢と延期の背景

EUの行政執行機関である欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は7月13日、報道陣に対し「私たちは交渉による解決を好むと明確にしてきた」と改めて強調し、報復関税の発動延期の方針を示しました。この発言は、EUが外交的解決に重きを置いていることを裏付けるものです。

当初、EUは米国が鉄鋼・アルミニウムに追加関税を課したことに対抗し、米国産二輪車や農作物など合計210億ユーロ(約3兆6000億円)相当の報復措置を4月15日から段階的に発動する計画でした。しかし、米国が「相互関税」の上乗せ分の発動を一時的に停止したことを受け、EUもこれに呼応する形で報復措置の導入を延期していました。今回の延長は、この延期措置をさらに継続するものです。

EU旗が風になびく様子。EUと米国の貿易摩擦に関する交渉の行方を示す象徴的な画像。EU旗が風になびく様子。EUと米国の貿易摩擦に関する交渉の行方を示す象徴的な画像。

高まる対抗措置への準備とEU内部の相違点

一方で、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)などの報道によると、欧州委員会は米国の相互関税への対抗策として、既に発表していた工業製品や食料品など総額950億ユーロ(約16兆円)相当の報復関税案について、7月14日に加盟国間の調整を踏まえた修正案を示す予定でした。フォンデアライエン委員長も13日には「同時にさらなる対抗措置の準備も続ける」と述べており、交渉と並行して「プランB」の構築を進めていることが伺えます。

しかし、追加の報復関税案の規模は、加盟国からの要望を受けてさまざまな品目を対象から外し、最終的に720億ユーロ相当まで縮小されました。これは、EU加盟国間での交渉方針に対する意見の相違が影響していることを示唆しています。例えば、ドイツは、英国が米国と迅速に合意したように、ある程度の妥協をしてでも早期解決を目指す姿勢を見せています。これに対し、フランスは貿易条件の厳格化を重視するなど、加盟国間でアプローチの違いが顕著です。

仮にEUが加盟国間での意思統一に手間取れば、トランプ氏の独断に近い形で交渉を進める米国に、全体の交渉ペースを完全に握られてしまう危険性も指摘されています。

まとめ

欧州連合は、トランプ米政権による新たな関税措置の表明に対し、報復関税の発動延期を通じて交渉による解決を優先する姿勢を明確にしました。しかし、同時に大規模な対抗措置の準備も進めており、その規模は加盟国の意見を反映して調整されています。ドイツとフランスに見られるような加盟国間の交渉方針の違いは、EUが今後、米国との複雑な貿易問題にどのように対応していくかに大きな影響を与えることになります。EUが内部の足並みを揃え、米国の強硬な貿易政策にどう対峙するかが、今後の国際貿易関係の重要な焦点となるでしょう。


参照元:
Yahoo!ニュース: EU、対米報復関税の停止期間延長 トランプ氏の「30%関税」表明後も交渉優先