インド航空機墜落事故、燃料制御スイッチ点検指示:国際的動向と安全への影響

今年6月、インド西部アーメダバード発ロンドン行きのエア・インディア機ボーイング787-8型ドリームライナーが離陸直後に墜落し、多数の犠牲者を出した事故は、国際的な航空安全への懸念を改めて浮上させました。この重大事故を受け、インド民間航空総局(DGCA)は国内の航空各社に対し、ボーイング機の燃料制御スイッチの緊急点検を指示。これは、事故調査の初期報告で同スイッチが離陸直後に「オフ」にされた可能性が指摘されたことを受けた措置です。一方、米連邦航空局(FAA)は同スイッチの安全性を主張しており、国際的な見解の相違が注目されています。

事故の背景と初期調査報告

現地時間6月12日午後1時38分、アーメダバードを出発したエア・インディア機が離陸直後に墜落。この悲劇により、乗客乗員260人が死亡し、奇跡的にイギリス人男性1名(40)が生存しました。

インド航空事故調査局(AAIB)が12日に公表した15ページにわたる予備報告書は、事故調査の初期段階での重要な発見を示しています。回収されたコックピット・ボイス・レコーダー(CVR)には、ある操縦士が「なぜ遮断したんだ?」と問い、別の操縦士が「そんなことしていない」と答える音声が記録されていました。航空機には左右のエンジンへの燃料供給を制御するスイッチがあり、通常は地上でのエンジン稼働・停止時に使用されます。事故機のフライト・レコーダーのデータは、離陸直後に左右の燃料制御スイッチが「RUN(運転)」から「CUTOFF(遮断)」に切り替わっていたことを示しており、AAIBの報告書は、これにより左右のエンジンが推力を失ったと指摘しています。

インド・アーメダバードで墜落したインド航空ボーイング787ドリームライナーの残骸インド・アーメダバードで墜落したインド航空ボーイング787ドリームライナーの残骸

各国の対応と見解の相違

予備報告書の公表を受け、インド国内外の航空関連機関が迅速な対応に乗り出しました。

DGCAは、機体の耐空性と運行上の安全性を確保するため、7月21日までに燃料制御スイッチの点検を実施し、結果を報告するよう航空各社に厳しく指示しました。この指示は、AAIBの予備報告書で言及された2018年のFAA指針に基づくものです。2018年のFAA指針は、ボーイング機を運航する事業者に対し、スイッチのロック機能の点検を推奨するものですが、義務付けではありませんでした。AAIBの予備報告書は、エア・インディアがこの非義務的な点検を実施していなかった点を指摘しています。

一方、FAAは12日、AAIBの予備報告書の内容を確認したと各民間航空当局に通知。FAAは、2018年の指針は「スイッチのロック機能が無効化された状態で取り付けられていたとの報告をもとに作成されたもの」だと説明しつつも、「これが航空機の安全性を損なうものだとは考えていない」と強調しました。内部メモでは、「複数のボーイング機種には類似した燃料制御スイッチの設計が用いられているが、これが安全性に関わり、耐空性改善命令(AD)を出す必要がある問題だとは考えていない」と明言。FAAは今後も関連情報を共有していく方針です。

この動きに対し、インドの商業パイロット協会は14日、事故機の乗員は「困難な状況下で訓練と責務に従って行動した。操縦士は憶測で非難されるべきではない」と表明し、パイロットへの早計な非難を牽制しました。ロイター通信によると、韓国もボーイング機を運航するすべての航空会社に対し、同様の燃料制御スイッチ点検を指示する方針を示しています。

エア・インディアの対応と今後の見通し

エア・インディアのキャンベル・ウィルソン最高経営責任者(CEO)は従業員宛てのメールで、事故原因について「性急に結論」を下すべきではないと警告しました。ウィルソン氏は、これまでの「様々な仮説や疑惑、うわさ、そしてセンセーショナルな見出し」の多くが後に否定されていると述べ、予備報告書は事故原因を特定しておらず、推奨事項も示していないと強調しました。

同CEOは、「徹底的かつ包括的な調査の実施に必要なあらゆることを調査官が確保できるよう、引き続き協力していく」と述べました。また、報告書では「機体やエンジンに機器の問題や整備上の問題は示されていない」とし、エア・インディアが運航前に必要なすべての点検を行っていたことを改めて強調しました。それでも同社は、事故から数日以内に、所有する787機に対し追加点検を実施。「慎重を期すための措置」として行われたこれらの点検により、すべての機体が運航に適していることが確認されたとウィルソン氏は付け加えました。

最終的な詳細報告書は今後12カ月以内に公表されると見られており、この墜落事故の全容解明にはさらなる時間と調査が必要とされています。

この事故は、航空機システムの安全性、パイロットの操作、そして国際的な航空規制の連携の重要性を浮き彫りにしています。今後の詳細な調査報告が、世界中の航空安全基準にどのような影響を与えるか、引き続き注視が必要です。

参考文献

  • BBC News: “India orders airlines to check fuel switches on Boeing jets / Boeing fuel switches safe, regulator says after Air India crash”
  • Yahoo News Japan: “インド西部アーメダバードに墜落したインド航空ボーイング787ドリームライナーの一部” (画像情報)
  • インド民間航空総局(DGCA)公式発表 (関連情報より)
  • 米連邦航空局(FAA)公式通知 (関連情報より)
  • インド航空事故調査局(AAIB)予備報告書 (関連情報より)