中国・北京市で拘束され、スパイ罪で起訴されていたアステラス製薬の日本人男性社員(60代)に対し、同市の第2中級人民法院(地裁)は2025年7月16日、スパイ活動を認定し、懲役3年6月の実刑判決を言い渡しました。この判決は、在日中国日本大使館の金杉憲治大使が記者団に明らかにしたもので、具体的なスパイ活動の内容は公表されていません。今回の判決は、中国でビジネスを展開する邦人の間で不安を募らせ、日本企業の「中国離れ」を加速させる可能性があり、改善基調にあった日中関係にも少なからず影響を与えると見られています。
判決の詳細と日本政府・中国政府の反応
判決公判は日本メディアには非公開で約15分間行われました。金杉大使は公判後、「有罪判決が出されたことは極めて遺憾だ」と強調。判決内容については「本人の意向もあり、詳細については差し控える」としつつも、「一定程度の説明はあったものの、透明だというレベルではなかった」と中国の司法手続きの不透明性を指摘しました。
日本政府は男性の早期釈放を繰り返し求めてきましたが、今回の有罪判決を受け、改めて拘束中の権利保障や司法手続きの透明性向上などを中国政府に要求。外務省の北村俊博外務報道官は16日の記者会見で、「中国での邦人拘束事案は、日中間の人的往来や国民感情の改善を阻害する最大の要因の一つだ」と懸念を表明しました。
一方、中国外務省の林剣副報道局長は、「中国は法治国家であり、司法機関は法に基づき厳格に事件を取り扱っている」と述べ、「中国へ駐在・訪問する外国人は、法律を順守し、法律に基づき業務を行う限り、何も心配や不安を抱えることはない」と強調しました。
在中国日本大使館によると、金杉大使は16日午後に男性と領事面会を行っています。中国の刑事裁判は2審制であり、男性は上訴について弁護士と相談する意向を示しているとのことです。
北京市第2中級人民法院の建物外観。中国でスパイ罪の裁判が行われる場所。日中関係に影響を与える日本人拘束事件。
拘束から判決に至る経緯と反スパイ法の拡大解釈
今回有罪判決を受けた男性は、アステラス製薬の現地法人で幹部を務め、日系企業で構成される「中国日本商会」の副会長も務めたベテランの駐在員でした。2023年3月、日本への帰国直前に中国当局に拘束され、同年10月に正式に逮捕。その後、2024年8月にスパイ罪で起訴され、同年11月に初公判が開かれていました。
習近平指導部は2014年に反スパイ法を施行し、2023年にはこの法律を改正しました。従来の「国家機密」に加え、「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料、物品」の提供や窃取なども処罰対象に拡大されたことで、その定義が曖昧になり、中国当局による恣意的な運用がされる可能性が懸念されています。
反スパイ法施行後、これまでに少なくとも17人の日本人が中国で拘束されており、今回の男性を含め12人が懲役3年から15年の実刑判決を受けています。現在も5人が解放されておらず、直近では5月に上海の裁判所で50代男性が懲役12年の判決を受けたばかりでした。
アステラス製薬は、今回の件に関して「社員の健康、安全を確保するため、できる限りのサポートをしている。引き続き関係各所と連携し、適切に対応する」とコメントしています。
まとめ
今回の判決は、中国における日本人ビジネスマンの活動リスクを改めて浮き彫りにしました。中国の反スパイ法の曖昧な定義と運用は、今後も日本企業の中国事業や人的交流に大きな影響を与え続けるでしょう。日中関係の改善を目指す上で、このような邦人拘束事案の透明な解決と、安心して活動できる環境の整備が喫緊の課題となっています。
参考資料
- 毎日新聞. 「アステラス製薬社員に懲役3年6月、中国スパイ罪判決 日中関係に影響も」. Yahoo!ニュース, 2025年7月16日. https://news.yahoo.co.jp/articles/3432880bbb28bea28b2cd1b41790ff2e1cf23fc5