滋賀県内で暮らす外国人の数は2024年末時点で4万1475人に達し、前年比2109人増と過去最高を更新しました。県内総人口に占める外国人比率が高い湖南市(7.42%)や愛荘町(5.65%)、甲賀市(5.40%)など、特定の地域では既に社会の重要な一部となっています。しかし、次期参院選に向けて「日本人ファースト」や「違法外国人ゼロ」といった、外国人材の流入に慎重な姿勢を示す訴えも目立ち始めています。少子高齢化が急速に進む日本社会において、人手不足に悩む多くの産業が海外人材に支えられているのが現実です。この現状を踏まえ、滋賀県のある企業を訪ね、今後の外国人政策がどうあるべきか、その本質を深掘りします。
人手不足を救う外国人材:長谷金属の成功事例
愛荘町島川に拠点を置く金属加工会社「長谷金属」は、1964年に大阪市で鋼材卸業として創業し、1993年に現在地へ移転しました。2000年代に入ると、当時の社長である長谷佳幸会長(67)の下で事業を多角化。しかし、溶接や塗装といった専門技術を担う若手人材の確保に苦慮し、その解決策としてベトナムに活路を見出しました。2013年には、熱心に日本文化を学ぶ生徒たちの中から3名を技能実習生として採用。佳幸会長は、住居の提供はもちろん、夏冬用布団や食器一式まで用意し、まるで父親のように手厚く彼らを支えました。
工場内では、安全面の細かな指導に加え、日本語に慣れてもらうため同僚たちにも積極的に話しかけるよう促しました。当初は外国人の受け入れに戸惑いもあったものの、実習生たちのひたむきな努力と意欲が次第に社内の雰囲気を明るく変えていきました。彼らはわずか半年ほどで基本的な作業を習得し、その高い学習能力と適応力は目覚ましいものでした。
長谷金属の外国人材への手厚い待遇は、送り出し国からも高い評価を得ています。現在では即戦力となる「特定技能」資格者や、高度な専門知識を持つエンジニアを含め、ベトナム、ネパール、日系ブラジルなど様々な国籍の34名が同社で活躍しています。彼らは全従業員65名の半数強を占め、外国人材の中から4名の職場リーダーも誕生。多様な背景を持つ人材が、企業の成長と革新を牽引しています。ある年の忘年会では、ベトナム人従業員がサプライズで「サッカーチームを作りました」と発表。彼らは自国に発注して長谷金属のロゴ入りユニホームを仕立て、その愛社精神を示すとともに、地元の中山道宿場まつりにもこのユニホームで参加し、地域住民との交流にも貢献しています。
長谷金属は、夫婦や兄弟での勤務を積極的に奨励しており、月1万円の「家族割増手当」を支給。夫婦で勤務する場合、年間24万円の年収増となり、外国人材の生活基盤を安定させる大きな支援となっています。
長期滞在を望む外国人材の現実と課題
こうした家族支援制度を活用しているベトナム人夫婦のニュットさん(31)とハンさん(33)の事例は、外国人材が日本社会に深く根ざし、長期的な定住を望む現実を浮き彫りにしています。夫のニュットさんは、当初技能実習生として来日し、一度帰国した後、特定技能1号の資格で再び日本へ。長谷金属での勤務は通算9年になります。最近、特定技能2号への昇格試験に合格し、これにより日本での滞在期間に上限がなくなり、本国に預けている2歳になる息子さんを日本に呼び寄せることが可能となりました。ニュットさんは「日本の食事や文化が大好き。治安や医療面でも安心できるこの国で、ずっと暮らしていきたい」と語り、共働きする妻のハンさんと共に、日本での明るい将来の展望を描いています。
しかし、次期参院選の議論の中では、この特定技能2号の権利を見直すべきだという政党や、「外国人比率の上昇抑制」「外国人土地取得規制法案」といった文言を掲げる動きも見られます。このような風潮に対し、昨年、父から社長のバトンを引き継いだ長谷健太郎さん(39)は強い懸念を示しています。
外国人政策のあり方を問う:企業経営者の提言
長谷健太郎社長は、外国人材の貢献を高く評価しています。「海外人材のおかげで、社員平均年齢は約35歳と大幅に若返りました。彼らの忠誠心やハングリー精神から教えられることも多く、会社全体に良い影響を与えています。」と述べ、外国人材が日本の労働市場と企業に活力をもたらしている現実を強調します。そして、政治家に向けては「真面目に働く外国人を、もっと寛大な気持ちで受け入れるべきではないでしょうか。例えば、10年以上勤続して問題がなければ、定住できるようにすべきです」と提言しています。これは、一時的な労働力としての受け入れに留まらず、日本社会の一員として彼らが安心して暮らせる環境を整備することの重要性を示唆しています。
補足:技能実習と特定技能
外国人材の在留資格には「技能実習」と「特定技能」があります。
- 技能実習: 1993年に始まった制度で、途上国の外国人が日本で働きながら技能を習得することを目的としています。在留期間は最長5年です。
- 特定技能: 2019年に、人手不足が深刻な特定の産業分野で外国人労働者を受け入れるために設けられました。技能水準に応じて1号と2号があり、1号の在留期間は通算5年です。一方、熟練した技能が求められる「2号」は在留期間に上限がなく、家族の帯同も認められています。
結論
滋賀県の事例が示すように、外国人材は日本の地域社会や産業にとって不可欠な存在となりつつあります。少子高齢化による労働力不足が深刻化する中で、彼らの勤勉さ、貢献意欲、そして日本社会への定着願望は、日本の持続的な発展にとって貴重な財産です。参院選での外国人政策に関する議論は、日本の未来を左右する重要な岐路に立っています。感情論や排他的な言動に流されることなく、真に日本の国益と社会の活力を最大化するためには、真面目に働き貢献する外国人材を寛容な心で受け入れ、長期的な視点に立った共生社会の実現に向けた政策が不可欠です。彼らが安心して日本で暮らし、働き続けられる環境を整備することが、今後の日本の活力と成長を支える鍵となるでしょう。
参考文献:
- 毎日新聞 (オリジナル記事提供元)