「涼しいですねえ。クーラーでもついているんですか?」
7月8日、最高気温36.4℃を記録した大阪府郊外の住宅地で、ある異例の見学会が開催されました。そこには、個人宅に設置された核シェルターの入り口が。重厚な鉄扉を開け、地下へと続く階段を下りると、外の酷暑が信じられないほどの涼しさが広がっていました。これは、日本で初めて個人宅の核シェルターが公開されるという歴史的な出来事です。
地面に設置された個人宅の核シェルターへの入り口。頑丈な鉄扉が開き、地下へと続く階段が現れている。
地下シェルターの驚くべき快適性:自然の涼しさと居住性向上
案内してくれたのは、この核シェルターを製造したアンカーハウジング株式会社の吉山和實代表取締役です。吉山氏は、「いいえ、地下ならではの自然の涼しさです。有事の際にはエアコンが使えない状況が想定されますが、地下の場合は電気がなくても快適な一定の温度を保つことができます。今はドアを開けた状態ですが、ドアを閉めるともっと涼しくなります。現在販売されているシェルターの中には地上設置型のタイプもありますが、暑くて中にはいられないでしょう」と語ります。
実は、日本における核シェルターの普及率は0.02%と言われていますが、その実態はほとんど明らかではありません。公的に整備された避難施設としての核シェルターが存在せず、一部の富裕層が密かに建設したものしかないためです。所有者としては、万が一の際に人が殺到するのを避けるため、自宅に核シェルターがあることを周囲に知られたくないのが当然です。そのため、これまでモデルルームの核シェルターが公開されることはあっても、個人宅に設置されたものが公開されるのは今回が日本で初めてのこととなりました。
富裕層が核シェルターを設置する理由:国際情勢と土地活用
今回の核シェルター設置を決めたオーナーは、隣接する敷地に邸宅を構えていましたが、隣地が空いたため将来的に孫が家を建てることを視野に入れて購入したそうです。しかし、当面の間、土地を遊ばせておくのはもったいないと考え、その用途を模索していました。ちょうどその頃、イスラエルやウクライナを巡る緊迫した国際情勢を目の当たりにし、核シェルターの設置に至ったと言います。
シェルターが埋設されたのは敷地の隅の方で、残りの広大な敷地には家を1軒建てられるだけの十分なスペースが残されており、オーナーはここにゴルフのパッティンググリーンを設けたとのこと。なんとも贅沢な話です。シェルターはオーナーの奥様からも、「天井が高いので何かあったときもストレスなく過ごせそう」と好評だったと伝えられています。
アンカーハウジング製核シェルターの詳細:機能と進化
アンカーハウジングの核シェルターは、米軍基地などで使用されている規格を基に国内で製造されています。駐車スペースの後方にある地面の長方形の鉄扉を開けると、地下へと続く階段が出現します。両側が石壁で構成されたその階段を下りて行くと突き当たりを曲がり、すぐ左に再び重厚なシェルターの鉄扉が現れます。
その扉を開くと、広さ12.5㎡のシェルター内部空間が広がっています。内部には、正面に小さなキッチンとトイレ、右側には二段ベッド、そして左側にはリビングとして過ごせる小規模な空間が設けられており、ベンチの下は防災用品を収納できるストッカーになっています。
基本的な構造は過去に取材されたモデルルームと共通していますが、細部にわたる点が以前よりも大幅にバージョンアップされているとのこと。部屋全体の面積に対してトイレスペースがしっかりと確保されていたり、壁面の内装がモザイク状の石壁になっているなど、居住性が格段に向上している印象です。もちろん、万が一の際に避難すれば、放射能はもちろんのこと、爆風や熱も完全に遮断され、爆心地から100~200メートル離れていれば安全だとされています。
「今回は、大手百貨店の外商の方も来ていました。以前、横浜のモデルルームも見に来てくれた方なのですが、『以前に見たものよりもレベルが上がっていて驚きました。お客さんにもしっかりすすめていきたいです』と話していました」と吉山氏は語ります。
高まる需要と日本の課題:ミサイル・核攻撃への「自己責任」
中東情勢の緊迫化やロシアのウクライナ侵攻は、もはや対岸の火事ではありません。日本でも北朝鮮のミサイル開発や台湾有事への危機感が募る中、「核シェルターに関心を持つ富裕層は増えています。さらに、近年多発する闇バイト強盗に備えたパニックルームとしての需要も多いですね」と吉山氏は指摘します。
前述の通り、日本では地震などの自然災害に対する防災の備えは進んでいるものの、ミサイル攻撃や核攻撃に対する備えは、ほとんど進んでいないのが現状です。政府は今年6月の「骨太の方針」の中で、ようやくミサイル攻撃などの有事を想定した避難施設の整備について、2025年度中に実施方針を取りまとめることを盛り込みました。石垣島では、500人が2週間待避できるシェルターの設計が始まっていると報じられていますが、その完成時期はまだ未定です。
災害に対してはまだしも、核やミサイルによる脅威への備えは、依然として個人の「自己責任」に委ねられている側面が大きいと言えるでしょう。
結論
今回、日本で初めて個人宅の核シェルターが公開されたことは、日本の安全保障と個人の危機管理に対する認識の変革を示唆しています。国際情勢が不安定化し、ミサイルや核攻撃の脅威が現実味を帯びる中、公的な避難施設の整備が遅れる日本において、富裕層を中心に個人レベルでの防衛策が注目を集めています。核シェルターの快適性や機能性が向上し、その需要が高まっていることは、国民全体の安全保障意識を高める契機となるかもしれません。政府の対応が本格化するまでの間、自らの安全を守るための「自己責任」の備えが、これまで以上に重要視される時代に入ったと言えるでしょう。
参考資料
- FRIDAYデジタル
- Yahoo!ニュース