「謎解きはディナーのあとで」:東京・国立がミステリーの舞台に選ばれる理由

フジテレビでアニメ化もされた人気ミステリー小説『謎解きはディナーのあとで』は、大富豪の令嬢刑事と毒舌執事という異色コンビが難事件を鮮やかに解決する物語です。2011年のドラマ化、2013年の映画化も大ヒットを記録し、多くの視聴者を魅了しました。この作品の主要な舞台として選ばれたのは、東京都多摩地域に位置する閑静な住宅街「国立」です。

国立が「謎解きはディナーのあとで」の舞台となる背景

作中では「国立署」や「国立メッセ」といった架空の施設が頻繁に登場しますが、これらは実際の国立市には存在しません。しかし、テレビドラマ版では国立市役所の外観が「国立署」として使用され、執事・影山お気に入りの洋菓子店「ノエル」のシーンには、国立に実在し現在も営業している「レ・アントルメ国立」がロケ地となりました。こうした現実の場所が作品に彩りを加えています。

国立は昭和初期の都市計画に基づき、「大学通り」のような広い道路が整備され、広大な敷地を持つ洋館が点在しています。この落ち着いた街並みが、大富豪が主人公のミステリーの舞台として最適だったと言えるでしょう。その独特の雰囲気が、作品の優雅な世界観と見事に調和しています。

原作者である東川篤哉さんのトークショーが国立で開催されたこともあり、地域との深いつながりが窺えます。また、アニメ放送を記念して、国立の象徴的な「三角屋根」の旧国立駅舎で記念展示が行われ(現在は終了)、駅南口の「大学通り」沿いの増田書店には麗子と影山の等身大パネルが設置されるなど、地域を挙げた盛り上がりを見せました。

東京・国立の象徴、特徴的な三角屋根を持つ旧国立駅舎東京・国立の象徴、特徴的な三角屋根を持つ旧国立駅舎

ミステリー作品に不可欠な「旅情」

ミステリーに登場する舞台地は、単なる背景ではなく、どこか雰囲気があり、読者に「旅情」を感じさせる場所が多いものです。『砂の器』や『容疑者Xの献身』といった名作も同様に、物語の深みを増す情緒的な場所が選ばれる傾向にあります。これらの舞台は、読者や視聴者の作品世界への没入感を一層強めます。

物語の舞台となった場所を実際に訪れる「聖地巡礼」は、ミステリー作品においては古くから親しまれてきた文化です。国立市もまた、その落ち着いた雰囲気と作品とのつながりにより、多くのファンにとって「聖地」の一つとして認識されており、作品の世界を肌で感じられる特別な体験を提供しています。

「謎解きはディナーのあとで」が示すように、東京都国立市は、その計画的な都市設計と歴史的建造物が織りなす独特の景観によって、ミステリー作品の舞台として理想的な「旅情」を醸し出しています。作品に深みを与え、読者や視聴者を惹きつける国立の隠れた魅力は、今後も語り継がれることでしょう。