トランプ大統領、FRBパウエル議長解任報道を否定:独立性を巡る攻防と市場の反応

米国のドナルド・トランプ大統領は16日、連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長の解任計画を否定した。これに先立ち、トランプ氏が前夜にパウエル議長の解任について共和党議員らと協議したと報じられており、この発言は金融市場に大きな動揺を与えた。トランプ大統領はここ数週間にわたりFRBに圧力をかけ、その独立性を試す姿勢を鮮明にしている。

解任報道の経緯と市場の動揺

米紙ニューヨーク・タイムズが最初に報じたところによると、トランプ大統領は15日夜、共和党が推進する暗号資産法案に関する会合において、パウエル議長を解任する書簡の草案を議員たちに提示したという。ロイター通信も、トランプ氏が解任案について出席議員に意見を求め、肯定的な反応を得たと確認している。

しかし、この報道が流れた直後、トランプ大統領は記者団に対し、現時点でパウエル議長を解任する計画はないと述べ、自ら臆測の火消しに動いた。この一連の動きにより、外国為替市場ではドルが一時急落するなど、金融市場に混乱が生じた。パウエル議長に関してトランプ氏は「いかなる可能性も排除しないが、彼が詐欺で辞任を余儀なくされない限り、解任の可能性は非常に低いだろう」と語った。

トランプ氏のパウエル氏への繰り返される批判と不満

パウエル議長は2017年にトランプ大統領(当時)によってFRB議長に指名された人物である。しかし、トランプ氏はジョー・バイデン前米大統領が彼を再任したことを繰り返し批判している。特に、パウエル議長が政策金利の引き下げに踏み切らないことに対し、トランプ氏は強い不満を募らせてきた。

最近では、批判の矛先をやや変え、FRB本部の改修費用が当初予定を7億ドル(約1040億円)も上回るとされる件をやり玉に挙げている。

解任に関する矛盾する発言と後任選びの動き

トランプ大統領はこれまで、パウエル議長を解任しないと繰り返し公言してきた。しかし、国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット委員長は13日、米ABCニュースで解任は「検討されている事案の一つ」だと発言し、トランプ大統領の発言と矛盾する見解を示した。

一方、スコット・ベッセント財務長官は、パウエル議長の4年の任期が2026年5月に満了するにあたり、後任選びの「正式なプロセス」がすでに開始されていることを明らかにしている。

FRB議長の解任権限と過去の判例

FRBの議長および理事は大統領によって指名されるものの、FRBは憲法上、基本的に独立して運営される機関である。1913年のFRB創設以来、米大統領がFRB議長を解任しようとした前例はない。

1935年の連邦最高裁判決(ハンフリー対米国事件)では、当時のフランクリン・D・ルーズベルト大統領が、政策上の理由のみで連邦取引委員会(FTC)の委員を解任することはできないと判断された。FTCもFRBと同様に独立機関として位置づけられている。ただし、トランプ政権は過去にこの判例に異議を唱えた経緯があり、連邦最高裁は一時的に、大統領が独立機関である全米労働関係委員会(NLRB)やメリット制度保護委員会(MSPB)の委員を解任することを認めた事例もある。

ホワイトハウスにて撮影されたドナルド・トランプ米大統領。FRBパウエル議長の解任を巡る発言が注目される中での一枚。ホワイトハウスにて撮影されたドナルド・トランプ米大統領。FRBパウエル議長の解任を巡る発言が注目される中での一枚。

まとめと今後の展望

ドナルド・トランプ大統領によるジェローム・パウエルFRB議長の解任を巡る一連の報道と、それに続く大統領自身の否定発言は、米国の金融政策の独立性に対する政治的圧力の強さを示している。FRBの独立性は金融市場の安定にとって極めて重要であり、大統領による解任権限の限界と過去の判例が注目される。今後も、パウエル議長の去就やFRBの政策金利動向、そしてそれが世界の金融市場に与える影響については、引き続き注視が必要である。

参考文献