『機動戦士ガンダム』シリーズに登場するモビルスーツ(MS)は、その多様なバリエーションで知られていますが、中には敵機に「偽装」して戦場に現れる異色の存在も存在します。戦場において敵味方の判別は文字通り生死を分ける重要な要素であり、機体の外見は極めて重要です。それでも、あえて敵機そっくりに姿を変える偽装モビルスーツは、一体どのような目的を持ち、どのような運命を辿ったのでしょうか。
パーフェクト・ガンダム(サンダーボルト版):性能向上と戦略的潜入の結晶
パーフェクト・ガンダム(サンダーボルト版)の勇姿。ガンダムの外装とザクの動力パイプが融合した偽装モビルスーツ。
漫画『機動戦士ガンダム サンダーボルト』(原案:矢立肇、富野由悠季/作画:太田垣康男)に登場する「パーフェクト・ガンダム(サンダーボルト版)」は、アムロ・レイの乗機として有名な「RX-78-2 ガンダム」と瓜二つの姿をしています。しかし、よく観察すると、腰回りや脚部にはザクを思わせる動力パイプが確認できます。
この機体の正体は、「サイコ・ザクMk-II」の骨格に「フルアーマー・ガンダム(サンダーボルト版)」の外装を施したもの。つまり、「ガンダムに偽装したザク」という驚くべき組み合わせなのです。ジオン軍のパイロット、ダリル・ローレンツが搭乗しました。その偽装の主な目的は二つ。一つは、地球連邦軍の宇宙要塞「ルナツー」へ敵の目を欺いて潜入すること。もう一つは、もともと地上用に開発された「サイコ・ザクMk-II」を宇宙空間での運用に適応させるための換装という意味合いも含まれていました。
その後、ダリルが操縦するパーフェクト・ガンダムは、ルナツーの格納庫内でモビルアーマー「ブラウ・ブロ」とドッキングするという衝撃的な姿を披露し、そのビジュアルは掲載誌「ビッグコミックスペリオール」2022年12号(小学館)の表紙を飾るほどでした。
ゲム・カモフ:完璧すぎる偽装が招いた悲劇
『機動戦士ガンダム MS IGLOO 603』(作:MEIMU/原作:矢立肇、富野由悠季)に登場する「ゲム・カモフ」は、「ザクII」をベースに開発された偽装機体です。「ゲム」という名称は「ジム」を意味しており、地球連邦軍の量産型モビルスーツ「ジム」をカモフラージュした機体であるという、そのものずばりのネーミングが与えられています。
本機は、出渕裕さん原案のエピソード「蝙蝠(こうもり)はソロモンにはばたく」でその姿を見せました。映像化はされていないものの、ゲーム作品を通じてその存在を知ったファンも少なくないでしょう。外見は連邦軍のジムそのものであり、敵機になりすますことで、敵への接近、奇襲攻撃、潜入工作、後方撹乱といった多岐にわたる戦術的な目的を遂行するために運用されました。
劇中では、第603技術試験隊のエンマ・ライヒが操縦し、実戦で大きな戦果を挙げます。しかし、皮肉なことに、その偽装の完成度があまりにも高すぎたため、味方であるジオン軍からの誤認攻撃を受けてしまい、エンマ・ライヒは戦死するという悲劇的な結末を迎えました。
戦争における「偽装」の倫理と現実
戦時中に「敵になりすます」行為は、現実の国際法に照らし合わせると、明確に禁じられた戦時国際法違反となります。これは宇宙世紀の戦場においても同様の原則が適用されると考えられ、単なる卑劣な行為というだけでなく、敵味方双方に甚大な混乱を引き起こす可能性を秘めています。
パーフェクト・ガンダムの場合、その機体はワンオフであり、高性能を追求したがゆえの構造変更(結果としての偽装)という側面も劇中で語られています。これは、戦略的な必要性と技術的な進化が融合した結果といえるでしょう。
一方でゲム・カモフは、純粋に敵を欺くためだけに開発された機体であり、少数ながらも複数機が製造されていたようです。ゲム・カモフの存在は、戦局的に追い詰められたジオン軍が、窮地を打開するために講じた「開き直りの産物」とも解釈できます。そして、完璧な偽装がもたらしたエンマ・ライヒの悲劇は、戦時における偽装行為の持つ危険性と、その代償の大きさを物語っているといえるでしょう。
参考文献
- 矢立肇, 富野由悠季 (原案), 太田垣康男 (作画). 『機動戦士ガンダム サンダーボルト』小学館.
- MEIMU (作), 矢立肇, 富野由悠季 (原作). 『機動戦士ガンダムMS IGLOO 603』KADOKAWA.
- 『ビッグコミックスペリオール』2022年12号. 小学館.
- マグミクス編集部. 「どう見ても連邦機です…どうしてそうなった?」. Yahoo!ニュース.