ラーメン店倒産が過去高水準に迫る:他業態からの競争激化が背景

2025年上半期(1月から6月)における「ラーメン店倒産件数」が、過去2番目に高い水準を記録し、飲食業界に警鐘を鳴らしています。東京商工リサーチの発表によると、この期間の倒産件数は25件で、過去最多を記録した2024年の年間33件に次ぐ数値です。倒産の主な原因は販売不振が22件と全体の約9割を占めており、円安、原材料価格の高騰、人件費、光熱費の上昇といったコスト増を、価格転嫁できないラーメン店の苦境が鮮明になっています。

ラーメン業界内の過当競争が背景にあることは言うまでもありませんが、近年特に注目されるのは、回転寿司チェーンをはじめとする他業態がサイドメニューとしてラーメン提供に注力している点です。特に新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、この傾向は急速に拡大しました。もはや回転寿司でラーメンは定番メニューとなり、居酒屋やファミリーレストランでも提供され、コンビニエンスストアの店頭や自動販売機でも手軽に購入できるようになっています。しかも、これらの他業態が提供するラーメンの多くは、有名ラーメン店が監修した本格的な商品であり、消費者の高い関心を集めています。こうした状況が、地域に根差した従来のラーメン店にとって大きな脅威となっているのです。

過去高水準が続く日本のラーメン店倒産件数過去高水準が続く日本のラーメン店倒産件数

ラーメン店倒産の現状と構造的課題

2025年上半期のラーメン店倒産件数25件という数字は、単なる一時的な現象ではなく、業界が抱える構造的な問題を浮き彫りにしています。主な要因である販売不振は、消費者の財布の紐が固くなっていることに加え、外食産業全体での競争が激化していることを示唆しています。さらに、昨今の円安は輸入品の原材料価格を押し上げ、小麦粉や豚肉、鶏肉などの主要食材の仕入れコストが大幅に増加しています。これに加えて、最低賃金の上昇による人件費の増加、電気・ガス料金の高騰といった光熱費の上昇は、ラーメン店の経営を一層圧迫しています。

本来であれば、これらのコスト増を商品価格に転嫁することで収益性を維持すべきですが、特に低価格帯を強みとしてきたラーメン店では、価格改定が客離れに直結するリスクを懸念し、踏み切れないケースが多く見られます。結果として、利益率の悪化に直面し、経営破綻に至る店舗が増えているのです。既存のラーメン店同士の競争も依然として厳しいものの、それ以上に新たな脅威となっているのが、これまでラーメンを専門としてこなかった他業態からの参入です。

回転寿司チェーンがラーメン市場を席巻する実態

回転寿司業界では、「スシロー」「はま寿司」「くら寿司」「かっぱ寿司」といった4大チェーンが、いずれもラーメンメニューに力を入れています。これらの店舗は、寿司をメインとしながらも、そば、うどん、スイーツ、コーヒー、アルコールまで提供する「総合和食」としての業態を確立しており、ラーメンもその商品バリエーションの一環として位置付けられています。低価格帯で提供されてきた寿司の価格を上げにくい一方で、新しく加わったサイドメニューであれば比較的高価格で提供できるため、高い利益率を見込みやすいという事業戦略が背景にあります。

近年、特にラーメンへの注力が顕著なのはかっぱ寿司です。現在、期間限定商品を含め10種類のラーメンを提供しており、中でも「博多一双監修 博多豚骨カプチーノ風ラーメン」はメイン商品の一つです。かっぱ寿司が回転寿司業界で後発ながらラーメン市場に参入して以来、有名店とコラボレーションした「本格ラーメンシリーズ」は第32弾まで続き、名物企画として多くの常連客を呼び込んでいます。

回転寿司チェーンで提供されるこだわりのラーメンメニュー回転寿司チェーンで提供されるこだわりのラーメンメニュー

かっぱ寿司の「本格ラーメンシリーズ」戦略

かっぱ寿司の「本格ラーメンシリーズ」は、2018年6月に札幌の行列店「えびそば一幻」監修の「海老ラーメン」を第1弾として発売し、わずか10日間で販売数10万食を突破する大ヒットとなりました。以降もラーメンファンには名の知れた有名店とのコラボレーションを継続し、累計販売数は1,700万食を超えています。この成功は、回転寿司の既存顧客だけでなく、ラーメン愛好家層の獲得にも貢献しています。

スシローの「食べログコラボ」で商品力強化

スシローは、グルメサイト「食べログ」と共同で「全国名店監修シリーズ」を展開しています。第1弾では、東京の「麺屋海神.」、京都の「麦の夜明け」、大阪の「山系無双 三屋 烈火」が監修した商品を同時に発売し、大きな反響を呼びました。スシローは2014年4月には既にラーメン販売を開始していましたが、「食べログ」との提携により、その商品力を一層強化した形です。最新では、7月16日に発売された「食べログ」評価3.72を誇る大阪の「鶏soba座銀」監修の「クリーミー鶏白湯ラーメン」が8月3日まで販売予定です。これまで100種類以上のラーメンを世に送り出しており、その開発力と供給体制は専門ラーメン店に匹敵します。

くら寿司の強気な価格設定と共同開発

くら寿司は現在、「【藤原系】こってり背脂濃厚まぜそば」「7種の魚介 醤油らーめん」「7種の魚介 濃厚味噌らーめん」「胡麻香る担々麺」の4種類を提供しています。「まぜそば」は880円という価格設定で、うな丼(830円)を上回るほどの強気な価格戦略が見て取れます。2024年5月から6月にかけては、「ラーメンステーション」や「らーめん香澄」と3社共同開発した「サバ白湯らーめん」をコラボ商品として発売し、好評を博しました。第2弾の発表が待たれるところです。

はま寿司の「グループ連携」による品質向上

はま寿司は、有名店とのコラボラーメンを大々的に展開してはいませんが、回転寿司チェーンの中で最もラーメンの評価が高いと言われています。その背景には、同店を経営するゼンショーグループ内に、ラーメンチェーン「伝丸」や中華食堂「天下一」を運営するエイ・ダイニングという子会社が存在することが挙げられます。このグループ内連携により、専門的なノウハウを活かしたハイレベルなラーメン開発が可能となっており、単なるサイドメニューの域を超えた品質を提供しています。

まとめ

2025年上半期に見られたラーメン店倒産件数の高水準は、単に経済的な逆風だけでなく、飲食業界全体の構造変化、特に回転寿司チェーンなど他業態からの競争激化が大きく影響していることを示しています。これらの他業態は、ブランド力のある有名店の監修を受けた高品質なラーメンを、既存の強固なサプライチェーンと広範な顧客基盤を活かして提供することで、ラーメン専門店にとって無視できない存在となっています。

今後、日本のラーメン業界は、伝統的な店舗と、多様な業態から参入する新たな競合との間で、より一層激しい競争にさらされることが予想されます。各ラーメン店は、コスト管理の徹底に加え、独自の付加価値や顧客体験の提供など、これまで以上に差別化戦略を強化していくことが求められるでしょう。

参考資料