先日投開票された参院選において、立憲民主党は改選前の議席数と同じ22議席にとどまる結果となった。野田佳彦代表が目標として掲げた「与党改選過半数割れ」は達成したものの、国民民主党をはじめとする他の野党が躍進を見せる中、党内には「実質的な負け」という受け止めが急速に広まっている。このような状況下で、自民党総裁である石破茂首相は政権維持に向けて立憲民主党に連携の「秋波」を送っているが、立憲民主党が安易にこれに応じれば事実上の「大連立」と見なされ、党としての致命的な傷を負いかねない深刻な局面に立たされている。
参院選結果が示す立憲民主党の苦境
今回の参院選では、立憲民主党は改選前議席を維持したものの、議席の大幅増には至らず、党勢の回復には繋がらなかった。一方で、同じ野党である国民民主党などが議席を伸ばしたことは、相対的に立憲民主党の存在感を薄める結果となったと言える。野党第一党として「与党過半数割れ」を実現しながらも、「負け」と評価されるこの現状は、立憲民主党が有権者の期待を十分に集めきれていないことの表れだろう。党内からは、目標達成にもかかわらず結果的に他党との差が縮まらない現状に対し、深い危機感が表明されている。
立憲民主党の野田佳彦代表が党本部で記者会見に臨む様子。参院選後の戦略と苦境について語る野田代表の表情。
野田代表の誤算と党内慎重論
「だらだらとした政治」への批判と不信任案への消極姿勢
野田代表は参院選後、21日の記者会見で石破首相の続投表明に対し、「だらだらとした政治をいつまで続ける気なのか」「民意を無視して居座り続けるのか。あまりにも説得力がない」と厳しく批判した。しかし、内閣不信任決議案の提出を検討するかとの問いには、「まだ考えていない」と明言を避ける姿勢を見せた。この消極的な態度は、党内の慎重論を反映しているとみられる。
政権交代への「ステップ」のつまずき
野田代表は今回の参院選を、将来的な政権交代を実現するための「ステップ」と位置付けていた。これは、かつて民主党が平成19年参院選で自民・公明両党を過半数割れに追い込み、その2年後の21年衆院選で政権交代を果たした成功体験に基づいていたものだ。しかし、今回の参院選で与党の過半数割れは実現したものの、野田代表の目論見とは裏腹に、立憲民主党の党勢に陰りが見えたことが最大の誤算であった。
臨時国会と不信任案提出の是非
臨時国会における内閣不信任案の提出については、党内で強い慎重論が広がっている。「この結果で衆院選になっても勝てない。不信任案は出せない」(中堅議員)という声や、「負けも負け。不信任案どころではない」(ベテラン議員)という厳しい指摘もあり、現実的な戦略を模索する声が支配的となっている。不信任案提出が次の衆院選に直結する可能性を考慮すれば、現在の党勢では勝算が低いという判断が働いているようだ。
参院選の結果に涙をぬぐう立憲民主党の辻元清美氏。野党の厳しい現状を象徴する一枚。
石破首相からの「秋波」と大連立の罠
連立政権拡大否定と「野田代表」への言及
石破首相は21日の記者会見で、現行の連立政権の枠組み拡大を否定しつつも、社会保障政策においては「野田代表と認識を共有する部分も多い」と発言し、複数回にわたり「野田代表」の名を挙げて連携への期待を示した。これは、野党第一党である立憲民主党に対し、政権運営における協力を求める「秋波」と解釈できる。
立憲民主党が直面するジレンマ
しかし、野田代表は参院選後、自民党との「大連立」を明確に否定している。政権交代を訴え、与党と対決姿勢で参院選を戦った立憲民主党にとって、自民党との安易な連携は自己否定に他ならないからだ。一方で、政権側からすれば、内閣不信任案を提出しない野党は、もはや脅威ではない。不信任案提出をちらつかせながら政策協議を行うのと、そのカードを切らずに話し合いに応じるのとでは、与党にとっての意味合いが全く異なるのである。別のベテラン議員は、「与党と個別の政策協議を進めても、国民から『大連立』と受け止められてしまえば、立憲民主党の存在意義が根本から問われかねない」と強く警鐘を鳴らしている。この状況は、立憲民主党が野党としての独自性を保ちつつ、国民の負託に応える政策を実現するという、極めて困難なバランスを強いられていることを示している。
結び
今回の参院選の結果は、立憲民主党と野田佳彦代表に、党のあり方と今後の戦略について重大な問いを突きつけた。政権与党からの協力の呼びかけに対し、安易な連携は「大連立」と見なされかねず、党の「存在意義」を揺るがす恐れがある。しかし、内閣不信任案という最大の武器を振るえない現状では、有効な対抗策も見出しにくい。立憲民主党がこの苦境を乗り越え、国民が期待する「対抗軸」としての役割を果たすことができるのか、その未来が今、厳しく問われている。日本の政治における野党の役割と政局の行方に、今後も注目が集まることだろう。