大学などの高等教育機関への進学には多額の費用がかかることが多く、お子様の教育資金の準備に頭を悩ませるご家庭も少なくないでしょう。経済的な理由で子どもの希望する進路を諦めざるを得ないというケースも存在します。こうした状況を背景に、国が支援する「大学無償化(高等教育の修学支援新制度)」は、学生の学ぶ意欲を経済的な側面から強力に後押しする重要な制度として注目されています。
本制度を活用することで、子どもの進学にかかる費用の一部を支援してもらうことが可能です。ただし、利用するには世帯収入や子どもの学習意欲など、所定の要件を満たす必要があります。さらに、2025年度からは多子世帯に対する所得制限が撤廃されるという大きな改正が予定されており、より多くの子育て世帯に恩恵が及ぶ見込みです。本記事では、大学無償化制度の概要、対象要件、具体的な支援内容に加え、特に注目される2025年度からの多子世帯向け改正について詳しく解説します。
大学無償化(高等教育の修学支援新制度)とは
大学無償化(高等教育の修学支援新制度)とは、経済状況に関わらず、大学や短期大学、高等専門学校、専門学校などへ進学したいという意欲がある学生に対して、高等教育を受ける機会を確保できるよう国が支援する制度です。この制度は、主に以下の2つの支援を組み合わせることで、学生やその家庭の経済的負担を軽減します。
- 入学金・授業料の減免: 進学先の学校に支払う入学金や授業料が減額または免除されます。
- 給付型奨学金の支給: 返済不要の奨学金が学生本人に支給され、学費以外の生活費などに充てることができます。
本制度が活用されることで、これまで経済的な理由で高等教育への進学を諦めていた多くの学生に、学びの夢を叶える機会が提供されるようになります。
支援対象となる学生の要件
大学無償化制度の支援を受けるためには、申請する学生と世帯が以下の条件をいずれも満たす必要があります。
- 世帯収入や資産要件を満たしていること: 住民税非課税世帯、またはそれに準ずる世帯が主な対象となります。具体的には、世帯の所得合計額が基準額以下であること、かつ世帯の資産合計額(預貯金、有価証券など)が一定額以下であることが求められます。これらの基準は、支援区分の決定にも影響します。
- 学ぶ意欲があること: 進学先で学習する意欲や、将来社会で活躍する意欲が認められる学生が対象です。これまでの学業成績だけで判断されるのではなく、高等学校などでの面談やレポート提出などによって学習意欲が確認されます。
これらの要件を満たすことで、制度の対象となる可能性があります。
所得区分と支給額:現在の制度
大学無償化制度では、世帯収入に応じて「第1区分」から「第4区分」までの4つの支援区分が設けられており、区分ごとに受けられる支援金額が異なります。
- 第1区分: 住民税非課税世帯が該当し、最も手厚い支援(上限額の全額)を受けられます。
- 第2区分: 第1区分の約3分の2の支援額が支給されます。
- 第3区分: 第1区分の約3分の1の支援額が支給されます。
- 第4区分: 2024年度から新たに加わった区分で、多子世帯や理工農系分野の学生などを対象に、上限額の約4分の1の支援が受けられます。
例えば、父(会社員)・母(専業主婦)・学生本人(18歳)・兄弟(中学生)の4人家族の場合、学生が私立大学に入学し一人暮らしをするケースでは、世帯収入が約270万円までであれば第1区分に該当し、限度額いっぱいの支援を受けられます。同じ家族構成で年収が約300万円までは第2区分、年収が約380万円までは第3区分に該当し、それぞれ定められた割合の支援が支給されます。
大学無償化制度による高等教育費支援をイメージさせる、机上の現金と電卓。
入学金・授業料の支援額詳細
入学金や授業料の支援額は、進学する学校の種類(大学、短期大学、高等専門学校、専門学校)や、国公立か私立かによって上限額が定められています。
【第1区分の場合の入学金・授業料の支援上限額(年額)】
学校の種類 | 入学金上限額 | 授業料上限額 |
---|---|---|
国公立大学等 | 約28万円 | 約54万円 |
私立大学等 | 約26万円 | 約70万円 |
※上記は第1区分の上限額です。第2区分は第1区分の約3分の2、第3区分は第1区分の約3分の1の金額が支給されます。
例えば、第1区分に該当する世帯の学生が私立大学に進学する場合、入学金として最大26万円、授業料として年間最大70万円の支援を受けることが可能です。ただし、大学1年の後期以降に支援を受ける場合は、入学金の免除・減額は受けられないことに注意が必要です。
給付型奨学金の支給額詳細
大学無償化制度では、学生が安心して学業に専念できるよう、学生生活を送るために必要な生活費として、日本学生支援機構(JASSO)から返済不要の給付型奨学金を受けることもできます。この奨学金は原則として毎月、学生本人の銀行口座に振り込まれます。
【第1区分の場合の給付型奨学金支給上限額(年額)】
居住区分 | 国公立大学等 | 私立大学等 |
---|---|---|
自宅通学 | 約35万円 | 約35万円 |
自宅外通学 | 約80万円 | 約80万円 |
※上記は第1区分の上限額です。第2区分は第1区分の約3分の2、第3区分は第1区分の約3分の1の金額が支給されます。
例えば、第1区分に該当する世帯の学生が国公立大学に通学し、一人暮らし(自宅外通学)をする場合、年間で最大80万円の給付型奨学金が支給されます。これにより、学費だけでなく、住居費や食費などの生活費の負担も大幅に軽減されます。
2025年度からの多子世帯向け所得制限撤廃の具体内容
2025年度(令和7年度)からは、「大学無償化」制度において、子育て世帯、特に多子世帯への支援が大幅に拡充されることになります。これまで、本制度には厳格な所得制限が設けられていましたが、これにより多子世帯の教育費負担が重くのしかかるという課題がありました。
新しい制度では、扶養する子どもが3人以上の多子世帯について、所得制限が撤廃されます。これは、世帯の年収に関わらず、3人以上の子どもを持つ家庭であれば、高等教育の修学支援新制度の対象となることを意味します。これにより、これまで所得制限のために支援を受けられなかった比較的収入の高い多子世帯も、学費支援の恩恵を受けられるようになります。
ただし、所得制限が撤廃されるのは「対象となる世帯」の範囲を広げるものであり、支給される支援額については、現行制度の第1区分から第3区分の水準が適用される見込みです。具体的には、世帯収入に応じて支援割合が調整される可能性があり、全額無償化となるわけではない点に注意が必要です。
この改正は、少子化対策の一環として、多子世帯の経済的負担を軽減し、誰もが希望する進路に進める社会の実現を目指すものです。一方で、扶養する子どもが1人または2人の世帯については、引き続き現行の所得制限が適用されます。この変更により、多子世帯の子どもたちが安心して高等教育を受けられる環境が整い、将来の選択肢がさらに広がるものと期待されます。
まとめ
「大学無償化(高等教育の修学支援新制度)」は、家庭の経済状況に左右されずに学生が学ぶ機会を確保するための重要な制度です。入学金や授業料の減免、返済不要の給付型奨学金によって、多くの学生が高等教育を受ける夢を叶える手助けとなっています。
特に2025年度からは、扶養する子どもが3人以上の多子世帯に対する所得制限が撤廃されるという大きな制度改正が行われます。これにより、より幅広い多子世帯が高等教育支援の対象となり、教育費の負担軽減に繋がることが期待されます。
高等教育への進学を考えている学生やその保護者の方は、この制度を積極的に活用することで、経済的な不安を減らし、お子様の将来の可能性を広げることができます。最新の情報や詳細な要件については、文部科学省や日本学生支援機構(JASSO)のウェブサイトで確認し、ご自身の状況に合った支援を検討することをお勧めします。
参考文献
- 文部科学省: 高等教育の修学支援新制度について
- 日本学生支援機構(JASSO): 奨学金の制度(給付型)