リニア中央新幹線、川勝知事辞任後も工事遅延の現実と2027年開業の「夢」

かつてリニア中央新幹線の開業遅延の急先鋒とされ、その動向が注目された静岡県の川勝平太知事が辞任して一年以上が経過しました。この大きな変化により、リニアの建設工事は順調に進んでいるとの見方も一部にはありますが、現実は異なる様相を呈しています。ジャーナリストの小林一哉氏の指摘によると、川勝前知事のいわゆる「妨害」とは無関係な工事の遅れが各地で頻発しており、当初掲げられた2027年開業という目標は、もはや「夢のまた夢」であった可能性が高いとされています。

南アルプストンネル山梨工区の現状:既に5年遅れ

JR東海は最近、山梨県から静岡県境に向けて掘り進められているリニア南アルプストンネルの「先進坑」が、ようやく県境手前300メートルに到達したと発表しました。先進坑とは、本坑を掘削する前に地質や湧水の状況を詳細に把握するために掘られる小断面のトンネルで、最終的には作業用通路や避難路として活用されます。

2015年12月に山梨工区の起工式が行われた際、JR東海は工事完了まで10年間を見込んでいました。しかし、現在の見通しでは、この先進坑の工事完了時期は「2030年」とされており、当初の計画から既に5年遅れが生じています。さらに、実際にはこの工区の工事完了がこの見通しよりも遅れる可能性が非常に高いと見られています。

南アルプストンネル山梨工区の先進坑掘削現場。リニア中央新幹線の工事遅延が各地で報告される中、技術的な課題が浮き彫りになっています。南アルプストンネル山梨工区の先進坑掘削現場。リニア中央新幹線の工事遅延が各地で報告される中、技術的な課題が浮き彫りになっています。

長野工区も直面する未曾有の難工事

2016年11月に起工式が行われたリニア南アルプストンネル長野工区においても、同様に工事完了見込みを「2030年」としています。しかし、この区間には土被り約1400メートルという、前例のない大規模な山岳トンネル区間が待ち構えています。地質学的に複雑な条件下での掘削作業は極めて困難であり、山梨工区と同様に、さらなる工事の遅れが見込まれる状況です。

「2027年開業」は静岡だけの問題ではなかった:JR東海が認める31カ所の遅延

JR東海は2010年4月、品川・名古屋間のリニア中央新幹線の開業を「2027年」と公表し、国の建設指示を受けて2014年12月に主要駅の工事に着手しました。しかし、2023年12月には、静岡工区の未着工を理由に、開業時期を「2027年以降」に変更すると発表しました。

この発表は、多くのメディアで「2027年開業が遅れるのは川勝平太・静岡県知事(当時)が静岡工区の着工を認めなかったため」という論調を強めました。しかし、川勝知事の辞任後、リニア沿線各地で工事の遅れが次々と明らかになっています。JR東海自身も、未着工の静岡工区だけでなく、山梨工区や長野工区を含む計31カ所で工事の遅延が発生していることを認めているのです。

小林一哉氏が静岡工区でのJR東海の対応を取材した結果、当初の計画が「ずさんで見通しも甘く」、そもそも2027年開業は現実的に不可能な目標であったことが明らかになったと述べています。

リニア開業の現実的な見通し:2037年以降か

静岡工区に関しては、JR東海は2024年3月、トンネル工事着手から完了までに10年間が必要であることを示しました。しかし、山梨工区の例を見ても、実際には少なくとも15年間、あるいはそれ以上の長期にわたる難工事となる可能性が非常に高いと予測されています。これらの複合的な要因を考慮すると、リニア中央新幹線の全線開業は、現実的には「2037年以降」となる可能性が高いと考えられます。

リニア中央新幹線の建設は、日本の未来を象徴する一大プロジェクトですが、その進行には依然として多くの課題が横たわっています。当初の計画の甘さや、予期せぬ地質条件など、川勝前知事の動向とは切り離された部分での遅延が顕著であることが浮き彫りになっています。今後、JR東海がこれらの課題にどのように向き合い、新たな開業目標を提示するのか、引き続き注目が集まります。

参考文献

  • 小林一哉. 「リニア妨害の急先鋒・川勝知事辞任も「2027年開業」が夢のまた夢だった可能性」. PRESIDENT Online, 2025年7月24日. https://president.jp/articles/-/98677