高年齢者雇用安定法改正から4年:広がる70歳までの就業確保と「働くシニア」活躍の鍵

近年、日本社会では高齢期になっても働き続けることが一般的な選択肢となりつつあります。2021年に施行された改正高年齢者雇用安定法は、この流れを一層加速させました。本記事では、法改正から4年が経過した現在、企業における70歳までの就業機会確保の状況と、高齢者が「いきいきと働く」ための重要な要素について掘り下げていきます。

高年齢者雇用安定法改正により多様な働き方で活躍するシニア世代高年齢者雇用安定法改正により多様な働き方で活躍するシニア世代

企業に広がる70歳までの就業機会確保:法改正の影響と現状

高年齢者雇用安定法の2021年改正により、企業は65歳までの雇用確保が義務付けられ、さらに70歳までの就業機会確保が努力義務となりました。2024年の「高年齢者雇用状況等報告」によると、65歳までの雇用確保措置は実に99.9%の企業で実施されています。加えて、3割を超える企業が70歳までの就業確保措置をすでに講じていることが明らかになりました。

企業が65歳までの雇用確保のために採用する主な措置には、「定年制の廃止」「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」の3つがあり、現在も「継続雇用制度の導入」が主流です。しかし、法改正前後の状況を比較すると、「定年制の廃止」または「65歳以上への定年引上げ」を行った企業の割合は、2020年の23.6%から2024年には30.4%へと約7ポイント増加しています。また、企業だけでなく公務員の定年年齢も段階的に65歳に引き上げられており、65歳定年の存在感がますます高まっています。高年齢者雇用安定法の改正から4年が経ち、企業も「働くミドル・シニア」も、60歳以降の働き方やライフデザインに対する意識が大きく変化しています。

「いきいきと働くシニア」の鍵:ウェルビーイングとエイジング・パラドックス

働くシニアが増加する中で、彼らが「いきいきと働く」ためには、「ワークエンゲージメント」(仕事への熱意や没頭)と「ウェルビーイング」(身体的、精神的、社会的に良好な状態)が鍵になると言われています(高尾, 2024)。興味深いことに、年齢別に見た幸福度は、若い時に高く、中年期に最も低くなり、50代後半から再び上昇する「U字型カーブ」を描くことが知られています。

加齢に伴い様々な喪失や衰えがあるにもかかわらず幸福度が高まっていくこの現象は、「エイジング・パラドックス」(矛盾)と呼ばれます。石山(2023)の研究によると、定年前後に役職定年や定年再雇用などで「ワークモチベーション」(仕事への動機・意欲)が一時的に低下する傾向が見られます。しかし、新たな仕事の醍醐味を見出したり、周囲から頼りにされたり、上司からの親身なサポートを受けたりすることで、仕事に対する価値観が変わり、モチベーションが徐々に向上し、結果的にU字型をたどる傾向があるのです。

結論

高年齢者雇用安定法の改正は、日本社会における高齢者の働き方を大きく変革し、70歳までの就業機会を確保する動きが企業に広がりを見せています。この変化の中で、高齢者が単に働き続けるだけでなく、「いきいきと働く」ためには、ワークエンゲージメントとウェルビーイングの向上が不可欠です。エイジング・パラドックスやU字型カーブといった現象を理解し、高齢者のモチベーションを維持・向上させるための環境を整備することが、今後の日本社会における持続可能な労働力確保において重要な課題となるでしょう。

参考資料

  • 高尾 (2024). 詳細は論文・報告書を参照.
  • 石山 (2023). 詳細は論文・報告書を参照.
  • 厚生労働省 (2024). 高年齢者雇用状況等報告.