7月20日に投開票が行われた参議院選挙の東京選挙区において、2位当選を果たし注目を集める参政党のさや氏(本名:塩入清香氏、43歳)。彼女の当選に伴い、過去の様々な発言がクローズアップされる中、特に「徴兵制」に関する過去の発言が大きな波紋を広げています。一体どのような発言が物議を醸し、その真意は何だったのでしょうか。本記事では、さや氏の過去の言動と、それに対する参政党およびさや氏本人の公式見解を詳しく解説します。
過去のYouTube動画「徴兵制を考える」での発言内容
さや氏の徴兵制に関する発言は、2023年7月13日にYouTubeチャンネル「皇統を守る会チャンネル」で配信された「【三姉妹】大人の道徳で『徴兵制』を考える」と題する動画の中でなされました。この企画で、さや氏は政治哲学者のジャン=ジャック・ルソーが『社会契約論』で訴えた「プロの軍人を雇うことや一部の志願者に兵役を担わせることが国家の衰退である」という見解を紹介。さらに、現在徴兵制を採用している国々としてスイス、イスラエル、ノルウェー、中国、イラン、北朝鮮、エジプト、オーストリア、スウェーデンなどを挙げました。スウェーデンは2012年に一旦廃止した徴兵制を2017年に復活させていることにも言及しています。
参議院選挙で注目を集める参政党のさや氏。過去の徴兵制に関する発言が波紋を呼んでいます。
また、近年ではアメリカで徴兵制復活の議論が活発になっていること、フランスのマクロン大統領が2018年に徴兵制復活を宣言したこと(実際には15~17歳の志願者が2週間軍隊生活を体験する国民奉仕隊SNUが発足)についても触れ、「徴兵制に関しては復活させようという声が高まっている」と説明しました。さや氏は徴兵制の利点として、「傭兵を雇うことに関して私は、新自由主義と言われる公営のところに民間のものを持ってくるっていう仕組みから脱却するためにも、すごく大事なことなんじゃないかっていう一つの視点を」と述べ、「自分のことは自分でやるっていうことが、外資からのいろんな買収とかそういうものから守ることに繋がるっていう部分がすごく大きい」と、国家防衛の観点から自立の重要性を強調しました。
加えて、徴兵制が担ってきた「教育的な役割」も重要な視点だと主張。学校教育では教えられないことが兵役の中で教えられ、体験できるとし、「日本だったら『益荒男(ますらお)(強く勇ましい男子)』に『手弱女(たおやめ)(たおやかな女)』があるように『益荒男』の部分を体感することができるっていうので、兵役は教育的な役割があるなと思う」と持論を展開しました。
日本における徴兵制導入への懸念と古川雄嗣氏の視点
一方で、さや氏は古川雄嗣氏著の『大人の道徳: 西洋近代思想を問い直す』(東洋経済新報社)に触れ、「今の日本で早急な徴兵制の復活は危険だとおっしゃってる。というのは、アメリカの属国だからですね」と、日本が置かれた現状について言及しました。古川氏の考えとして、「日本人が総1億兵役について自分の国は自分で守るという風になったときに、自分の国ためじゃない働きのために駆り出される可能性がある限りにおいては、やはりこの徴兵制に一足飛びにっていう風には、古川先生がそれは否定されていました」と紹介。そして、さや氏自身も「私もそれに賛成です」と述べ、現時点での日本における徴兵制の復活には否定的な見解を示していました。
SNSでの誤解と参政党の見解
参院選でのさや氏への注目が高まるにつれて、彼女の街頭演説や過去の発言が改めてクローズアップされる中で、この徴兵制に関する発言がX(旧Twitter)上で「さや氏が徴兵制を肯定した」と受け止められることが少なくありませんでした。こうした誤解の広がりに対し、参政党の神谷宗幣代表は7月17日、自身のXで「さやさんの過去の発言が切り取られていますが、参政党の政策に【徴兵制】など入っていません」と投稿し、党として徴兵制を政策に掲げていないことを明確に否定しました。
さや氏本人による「発言の真意」と最終見解
この発言が2年前のものであることから、国会議員となった現在でも徴兵制に肯定的な考えを持っているのかという疑問に対し、さや氏の事務局は「さや 本人からの説明」として以下の公式回答を寄せています。
「『教育と兵役はセット』『民主主義の根幹』との指摘が『胸に刺さる。』旨の発言は、日本の歴史やルソーの社会契約論を踏まえて、その指摘に重い意味があるとの考えに基づくもので、日本で徴兵制を導入することを肯定するものではありませんでした。そして、番組では、日本国民を育てる教育と兵役は一体化していたとの評価を紹介し、また、その考えに合致するルソーの指摘も紹介しました。徴兵制を採用している国家も紹介しましたが、紹介した書籍の著者は、現状の日米関係を前提にして徴兵制には反対との結論であることも明確に紹介しました。私は、紹介した書籍の著者の方の学校教育では学べない事を兵役では実践できるとの指摘を傾聴致しました。それはいろんな人に支えられて生きていることを感じ学べるという点についてです。徴兵制を採用するべきと主張した発言ではありません。実際当時から現在まで徴兵制には賛成しておりません。動画における私の発言を切り取りして、本来の考えとは異なる事実の摘示される記事は不当な印象操作となりますので厳に慎んで頂きますようお願い申し上げます」
この回答により、さや氏が日本の現場において徴兵制の導入を明確に否定していることが改めて示されました。
今回の騒動は、過去の複雑な議論が一部だけを切り取られ、誤解を招く形で拡散される危険性を示唆しています。参政党のさや氏の徴兵制に関する発言は、あくまで歴史的、哲学的な視点からその概念や教育的側面を考察したものであり、現在の日本に徴兵制を導入することを肯定するものではないということが、本人および党の見解から明らかになりました。情報が氾濫する現代において、正確な情報を理解し、多角的な視点から物事を捉えることの重要性を再認識させる一例と言えるでしょう。
参考文献
- Yahoo!ニュース: https://news.yahoo.co.jp/articles/c6f5ba62e41cb1a849c3ff66a0ed786e33fb8b5a
- YouTubeチャンネル「皇統を守る会チャンネル」: 【三姉妹】大人の道徳で『徴兵制』を考える (2023年7月13日配信)
- 古川雄嗣 著: 『大人の道徳: 西洋近代思想を問い直す』 東洋経済新報社