大阪・正圓寺の「巨大廃墟」に若者侵入相次ぐ、地域住民が不安訴え

大阪市阿倍野区に位置する吉田兼好ゆかりの古刹、正圓寺(しょうえんじ)の境内に建設途中で放置された建物が、SNS上で「巨大な廃虚」や「心霊スポット」として拡散され、若者たちの無断侵入が相次ぎ問題となっています。この事態に対し、周辺住民からは治安悪化への強い不安の声が上がっており、大阪府警は取り締まりを強化しています。

正圓寺、建設中断の経緯と元住職逮捕

この問題の背景には、寺の元住職(58)(受刑中)が進めていた特別養護老人ホーム建設計画の頓挫があります。2015年頃から始まったこの計画は、2018年には資金難により中断。その後、元住職は寺の所有地の差し押さえを免れるため、同年以降に虚偽の所有権移転登記を行ったとして、電磁的公正証書原本不実記録・同供用容疑などで2023年に逮捕されました。昨年10月、大阪地裁で懲役2年6月の実刑判決が確定し、現在は収監されています。

SNSで「心霊スポット」化、若者の侵入実態

特別養護老人ホームとして使用される予定だった建物は、外観がほぼ完成した状態で放置され、その異様な姿からSNS上では「歴史のある寺に巨大な廃虚」「不穏な空気が流れている」などと投稿され、一種の「心霊スポット」として注目を集めました。

捜査関係者によると、今年5月以降、侵入防止用のフェンスを乗り越え、この建物に複数の若者が入り込んでいたことが判明しています。阿倍野署は、これまでに未成年の4グループ計11人が別々に侵入したとみて、建造物侵入容疑などで捜査を進めています。聴取に対し、これらの若者は「心霊スポットとして有名なので肝試しに来た」と供述しているといいます。

寺は元住職の逮捕後、2023年10月以降はつながりのあった僧侶4人が代わりを務めていましたが、昨年11月以降は誰も来なくなり、門は閉ざされた状態です。建物の窓ガラスが割られたり、落書きされたりする被害も確認されています。

大阪市阿倍野区の正圓寺境内に放置された建設中の建物。若者の侵入が相次ぎ問題となっている。大阪市阿倍野区の正圓寺境内に放置された建設中の建物。若者の侵入が相次ぎ問題となっている。

地域住民の不安と警察の対応

阿倍野区によると、地元自治会は5月末、若者の侵入防止策として、より侵入しにくい鋼板製のフェンス設置などを求める要望書を区役所に提出しました。

地域住民の男性は取材に対し、「地域の治安が悪くなっている感じがする。近所の人も『建物で人がたむろしている』と怖がっており、不安だ」と述べ、現状への深い懸念を示しています。大阪府警は、こうした住民の不安を解消するため、正圓寺周辺のパトロールを強化し、建造物侵入などの犯罪行為に対する取り締まりを続けています。

大阪市阿倍野区にある正圓寺周辺の地図。地域住民が治安悪化を懸念しているエリアを示す。大阪市阿倍野区にある正圓寺周辺の地図。地域住民が治安悪化を懸念しているエリアを示す。

今回の事態は、単なる不法侵入に留まらず、地域の治安悪化、未成年者の安全、そして歴史的建造物の管理問題など、複数の側面をはらんでいます。早急な対策と、関係機関及び地域社会の連携が求められています。

出典:読売新聞オンライン