トランプ氏、疑惑渦巻く中スコットランドへ:ゴルフと故郷での「業務視察」

ワシントンの政治的重圧と、性犯罪疑惑を巡るジェフリー・エプスタイン元被告関連の質問攻めから一時的に距離を置く形で、ドナルド・トランプ前米大統領は今週末、英スコットランドへと旅立ちました。ホワイトハウスは今回の5日間の外遊を「業務視察」と称していますが、その公式な予定は極めて少なく、実質的にはトランプ氏が所有するゴルフリゾートでの滞在が中心となる見込みです。故郷スコットランドでの滞在は、彼の政治的課題からの「一時避難」という側面が強く指摘されています。

形式的な「業務視察」と実態

トランプ前大統領は、欧州連合(EU)首脳との通商協議や英国のスターマー首相との会談といった公務を予定しているものの、旅行の大半はスコットランド西部の「トランプ・ターンベリー」と、北へ約320キロ離れた「トランプ・インターナショナル」という自身の二つのゴルフリゾートで過ごすとみられています。これらリゾートの所在地であるスコットランドは、トランプ氏の母親メアリー・アン・マクラウドの生誕地であり、彼自身もこの地への強い愛着を公言しています。ホワイトハウス出発時には、「スコットランドではやることが山ほどある」と語り、自身の家系とのつながりにも触れました。

エプスタイン疑惑と政治的背景

大統領の座に返り咲いてから半年を迎えるトランプ政権は、現在、深刻な政治的危機に直面しています。特に、かつてトランプ氏の友人でもあった性犯罪で起訴され勾留中に死亡した米富豪ジェフリー・エプスタイン元被告に関する政権側の情報公開に対し、批判が噴出している状況です。ここ数週間、トランプ氏の記者会見ではエプスタイン疑惑に関する新たな質問が相次ぎ、元被告との個人的なつながりの暴露が、問題の収束を一層困難にしています。スコットランド外遊中、トランプ氏はこうした国内外の論争から離れ、貿易交渉、一族の事業、そして彼自身の愛するゴルフに集中する機会を得ると見られています。

スコットランドの空港に到着したトランプ氏の専用機を歓迎する支持者らの旗スコットランドの空港に到着したトランプ氏の専用機を歓迎する支持者らの旗

故郷スコットランドとの深いつながり

今回の外遊の主要なイベントの一つは、29日に北東部のアバディーンシャーで開催される新たな18ホールのゴルフコース「マクラウド・コース」の完成セレモニーです。このコースは、北海からの強風が吹き付ける海岸沿いに位置し、トランプ氏の母親メアリー・アン・マクラウドにちなんで名付けられました。メアリー・アン・マクラウドは1912年にスコットランド西部のルイス島ストーノウェー郊外で生まれ、18歳だった1930年に米ニューヨークへ移住。2000年に死去するまで、ドナルド・トランプ氏の母親としてその生涯を終えました。トランプ氏はしばしば、このスコットランドとの縁を強調していますが、彼が過去20年以上にわたって開発を進めてきた豪華なリゾートに対しては、地元住民から長年にわたり強い反対運動が起こっており、2018年の大統領1期目の訪問時には、数千人規模の抗議デモも発生しました。

現地の冷淡な反応と抗議活動

スコットランド当局はトランプ氏の訪問に向けて数週間にわたり準備を進め、その警備態勢は2022年のエリザベス女王崩御時以来の大規模なものだと報じられています。しかし、トランプ氏に対する現地の反応は全体的に冷淡な様相を呈しています。スコットランド独立を支持するリベラル寄りの新聞「ナショナル」は25日付の紙面で、「有罪評決を受けた米国の重罪犯がスコットランドに到着」と題し、トランプ氏を歓迎しないとの強いメッセージを強調しました。さらに、「ストップ・トランプ・スコットランド」を名乗る抗議デモ参加者の連合体は、アバディーンやエディンバラにある米総領事館の外での組織的な抗議活動を計画していると発表しています。また、オンライン上や英国の新聞には、トランプ氏が所有するゴルフクラブの看板のすぐ下に「エプスタイン島の姉妹施設」と書かれた別の看板が立てられている写真が出回り、現地の批判的な雰囲気を象徴しています。

複雑な会談:トランプ氏とジョン・スウィニー氏

25日にホワイトハウスを出発した際、トランプ氏はスコットランドで自身を待ち受ける反発については一切言及しませんでした。その代わりに、スコットランド自治政府首席大臣(首相に相当)であるジョン・スウィニー氏との会談を非常に楽しみにしていると語りました。スウィニー氏は左派寄りの人物であり、昨年の米大統領選では民主党のハリス副大統領(当時)を支持していた経緯があります。トランプ氏は記者団に対し、「彼は良い人物だ」「会談するのが楽しみだ」と述べており、異なる政治的立場を持つ両者の会談に注目が集まります。

今回のスコットランド訪問は、トランプ氏にとって国内での政治的逆風から一時的に距離を置き、自身のビジネスと家族のルーツに焦点を当てる機会となりそうです。しかし、現地での冷淡な反応や抗議活動は、彼が直面する課題が国際的にも注目されていることを示しており、その「業務視察」の裏にある多層的な意味合いが浮き彫りになっています。

参考資料