「ラッパのマーク」正露丸が中国で驚異の人気を誇る理由とは?

「ラッパのマーク」でおなじみの国民的胃腸薬、正露丸が今、中国市場で予想外の成功を収めています。かつて「征露丸」として日露戦争時に兵士の感染症予防に用いられ、その独特な香りで知られるこの薬が、なぜ遠く離れた異国の地でこれほどまでに支持されるのでしょうか。本記事では、大幸薬品の売上データや中国における歴史、そして専門家の見解を交えながら、その人気の背景に迫ります。中国市場における正露丸の驚異的な売上と、今後のさらなる拡大戦略、そしてそこに見える日中間の意外な文化交流に注目します。

昔の「征露丸」から現在の「正露丸」へ:その歴史と変遷

正露丸の歴史は古く、その始まりは日露戦争に遡ります。当時は「征露丸」と表記され、木(もく)クレオソートを主成分とするこの丸剤が、腸チフスや赤痢といった感染症から兵士を守る上で大きな効果を発揮したと伝えられています。この「征露」という名称は、当時の戦況を反映したものでした。

しかし、第二次世界大戦後、「征」の文字は「正」に改められ、今日の「正露丸」として私たちの知る形になりました。名称は変わっても、その独特な香りと優れた効能は現代に至るまで受け継がれ、多くの人々に愛され続けています。

大幸薬品の海外戦略:中国市場での驚異的売り上げと拡大計画

大幸薬品が製造する正露丸は、その年間売上約58億円のうち、約22億円分を香港、中国、台湾といった海外市場が占めています。さらに、この海外売上の大半が正露丸か、その関連商品(セイロガン糖衣Aなど)によるものです。この数字は、中国における正露丸の圧倒的な人気を明確に示しています。

中国市場で爆発的な人気を博す大幸薬品の正露丸。独特のラッパのマークが印象的なパッケージ。

現在、大幸薬品は中国本土の約4万5000店で正露丸などを販売していますが、その意欲的な拡大計画は止まりません。2027年度までには、販売店舗数を一気に8万店まで拡大する方針を掲げており、今後も中国市場での成長が期待されています。

中国で正露丸が愛される理由:漢方薬との共通点と現地のニーズ

正露丸が中国で人気を博している歴史は長く、大幸薬品の広報担当者によると、1954年には香港への輸出が開始され、中国本土での販売は1990年からとされています。特に香港に近接する華南地域で広まり、香港では正露丸のラッピングが施された路面電車が走るほど、その認知度は高いとのことです。

なぜ、中国の人々はこの独特な香りの薬に親しみを覚えるのでしょうか。広報担当者は「個人的には、正露丸の薬臭いというか、あの香りが漢方薬の匂いに通じると聞いたことがあります。だから、あまり違和感なく服用できるのかもしれません」と語ります。実際に、中国の伝統的な漢方薬には独特な香りを持つものが多く、正露丸の香りが異質なものとして受け止められにくい土壌があると考えられます。

加えて、高温多湿な華南エリアでは食べ物が傷みやすく、お腹をこわす機会が多いという地理的・気候的要因も、下痢止め効果を持つ正露丸の需要を高めている一因です。日々の生活の中で、正露丸が実用的な選択肢として浸透していったと言えるでしょう。

専門家が語る「爆買い」の実態:正露丸はなぜ選ばれるのか

中国問題に詳しいジャーナリストで拓殖大学教授の富坂聰氏は、中国で人気のある日本の薬として、昔から目薬と正露丸、そしてアリナミンAが挙げられると指摘します。これらの薬が選ばれる理由として、「効果がはっきりと感じられる」「中国製の安い薬のように変な成分が混じっていない」といった点が挙げられ、日本の薬に対する高い信頼とブランドイメージが確立されていることが分かります。

富坂教授によると、インバウンドで日本を訪れる中国人観光客は、以前ほど電気製品を購入しなくなりましたが、薬は別物だと言います。今もマツモトキヨシなどのドラッグストアでは、正露丸が「爆買い」の対象となっており、その人気は衰えることを知りません。

ちなみに、かつて日露戦争の戦場となったのは現在の中国大連市にあたる遼東半島ですが、中国人消費者はこの歴史的背景を特に気にしていないようです。彼らにとって重要なのは、製品の確かな品質と効能であり、正露丸はその期待に応え続けていると言えるでしょう。

結び

「ラッパのマーク」正露丸が中国でこれほどまでに愛されている背景には、その確かな効能、漢方薬に通じる香りへの親しみ、そして高温多湿な気候における実用性といった複数の要因が絡み合っています。大幸薬品の積極的な市場拡大戦略も相まって、正露丸は単なる胃腸薬を超え、日本の品質と信頼を象徴するブランドとして、中国市場で確固たる地位を築いています。今後も正露丸の中国でのさらなる展開と、日中間のこうした意外な接点がどのような進化を遂げるのか、注目が集まります。

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