日米関税交渉成功の裏側:山田重夫駐米大使の「全権外交」が拓いた道

先般、米韓間で予定されていた「2プラス2(財務・通商)」高官協議が直前で一方的に延期されたほか、国家安保室長の訪米会談も不発に終わるなど、米韓関税交渉に赤信号が灯る中、対照的に日米間では関税交渉が合意に達しました。特に、相互関税を25%から15%に抑えるという日本の成果は、韓国政府の通商関係者に困惑をもたらしています。こうした日米韓の交渉状況の差は、ワシントンで繰り広げられる激しい外交戦において、駐米大使がいかに「全権」を行使し、国の「特命」を遂行できたかに大きく左右されたと分析されています。

日本の山田重夫駐米大使(左)と韓国の趙賢東駐米大使が会談する様子。日米韓の外交関係を示す一枚。日本の山田重夫駐米大使(左)と韓国の趙賢東駐米大使が会談する様子。日米韓の外交関係を示す一枚。

米韓交渉の混迷と対照的な日米の成果

米韓関係においては、期限が迫る関税交渉が難航している状況が浮き彫りになっています。経済副首相の渡米直前の「2プラス2」高官協議延期や、魏聖洛国家安保室長とルビオ国務長官の会談不発は、その交渉プロセスの不安定さを示唆しています。この状況は、米国との貿易・産業構造が類似する同盟国である韓国にとって、予期せぬ困難を突きつけています。一方で日本は、相互関税を「10%台半ばから後半」という目標設定通り15%に抑える形で合意に至り、その外交手腕が注目されています。この決定的な差は、各国がワシントンで展開した外交戦の質と、駐米大使の権限行使の範囲に起因すると考えられます。

卓越した「米国通」山田重夫駐米大使の横顔

日米合意が発表された22日、ホワイトハウスがX(旧Twitter)に投稿した写真には、赤沢亮正経済財政・再生相に同席する山田重夫駐米大使の姿が確認できました。山田大使は、ワシントンにおける外交・安全保障関連の行事やレセプションで最も頻繁にその姿を見かける在外公館長の一人です。ワイングラスを手に、相手の肩書きに囚われず誰とでも親しく接するその姿は、ベテラン外交官としての親しみやすさと卓越した人間関係構築能力を物語っています。2023年7月に前任の富田浩司氏の後任として任命された山田大使は、駐米公使や外務審議官などの要職を歴任し、外務省内でも屈指の「米国通」として知られています。この深い知見と経験が、今回の重要な日米関税交渉において、日本の国益を最大化するための戦略立案と実行に大きく寄与しました。

多角的なアプローチによる日本外交の深化

日本は今回の関税交渉において、首脳レベルから閣僚級に至るまで、多層的かつ継続的なアプローチを展開しました。今年2月には石破茂首相とトランプ大統領との首脳会談が開催され、これを皮切りに閣僚が相次いで訪米し、商務長官らに対し自動車関税の引き下げを粘り強く求め続けました。この一連の働きかけの中で、山田大使は日本政府に有利な結果を引き出すための「キーマン」として、米国政府、議会、さらには州政府に至るまで、幅広いネットワークを駆使した広範な「外交戦」を展開しました。彼の外交努力は、単なる中央政府間の交渉に留まらず、米国内の多様な利害関係者との関係構築に焦点を当てたものでした。

地方重視戦略と具体的な経済連携の成果

山田大使の外交活動の中でも特筆すべきは、就任以来20以上の州を自ら訪問し、日本企業による対米投資と経済協力の意向を積極的にアピールした「地方重視戦略」です。今回、日本が関税交渉で提示した5500億ドル(約755兆ウォン)という巨額の投資パッケージは、トランプ氏が日本の交渉案を受け入れる上で決定的な役割を果たしたと評価されています。

合意直前の今月14日まで、山田大使は日系企業の代表者らと共にカンザス州を訪問し、クリーンエネルギー、電池産業、サプライチェーン(供給網)拡大といった各分野での協力意向を強調しました。続いてネブラスカ州も視察し、日米合意が伝えられると、共和党所属のジム・ピレン同州知事からは「我が国の歴史的な瞬間だ」との祝賀メッセージが送られました。これらカンザス州やネブラスカ州は、共和党優位のいわゆる「レッドステート」であり、トランプ大統領の支持基盤と重なる地域です。

さらに、山田大使は「関税戦争」を推進するトランプ大統領が最も重要視するラストベルト(衰退した工業地帯)出身であるジョン・ハステッド上院議員やデビッド・マコーミック上院議員とも積極的に接触しました。これらの地道な活動は、日本製鉄によるUSスチール買収の承認引き出しにも貢献するなど、具体的な経済成果へと結びついています。このように、山田大使は中央政府だけでなく、地方や議会に対するきめ細やかなアプローチを通じて、日本の外交力を高め、今回の関税交渉の成功に不可欠な貢献を果たしました。

結論

日米関税交渉の成功は、単なる経済的合意に留まらず、日本の巧みな外交戦略と、山田重夫駐米大使のような「全権」を持ったベテラン外交官の献身的な努力が実を結んだ結果と言えます。米韓交渉が難航する中で、日本が示した多角的なアプローチ、特に地方重視の経済協力と、主要な政治家・経済関係者との信頼関係構築は、今後の国際交渉における模範となるでしょう。外交の最前線であるワシントンにおける駐米大使の役割の重要性は、今回の事例を通じて改めて浮き彫りになりました。

参考文献