米国でペット放棄が急増:経済悪化が保護施設と飼い主を圧迫

景気悪化がペットの運命に暗い影を落としている。米国の動物保護施設では、経済が低迷すると飼い主がペットを手放すケースが急増するという痛ましい兆候を経験的に知っている。2000年代後半の金融危機や最近のインフレ急騰時にも同様の現象が見られた。今、再び全国の保護施設でペットの引き取り件数が急増しており、その背景には飼い主の深刻な経済的苦境がある。

全米に広がる経済的苦境とペット放棄の連鎖

ペット放棄の増加は、特定の地域に限られた現象ではない。ノースカロライナ州のある動物保護施設では、飼い主からのペット引き取り件数が前年比で約43%も増加したと報告している。同施設の職員は、「経済が悪化したり大量解雇があったりすると、必ずペットを手放す飼い主が増える」と現状を語る。これは全米各地の動物保護施設で共通する課題であり、CNNの取材に応じた複数の施設は、その根本原因が飼い主の生活苦にあると指摘した。数年前から病院通いや餌代など、ペット関連のあらゆる費用が飼い主にとって大きな負担となっている。さらに、予想外の医療費、借金の増大、失業などが家計を直撃し、ペットの飼育が困難になるケースが後を絶たない。

ボストンの保護施設に引き取られた2歳の犬「エース」。経済的困難によるペット放棄の増加を示す象徴的な存在。ボストンの保護施設に引き取られた2歳の犬「エース」。経済的困難によるペット放棄の増加を示す象徴的な存在。

住宅問題が加速させるペット放棄の悲劇

特に深刻なのは、住居の問題だ。多くの飼い主が、より手頃な住居への転居を余儀なくされ、そこでペットの飼育が認められないために愛する家族を手放す決断を迫られている。ミネソタ州プリンストンで保護団体に勤務するミーガン・ラーソン氏は、「涙を流しながらペットを手放す飼い主を見るのは本当につらい。彼らは望んでいないのに、そのような決断をしなければならないことに打ちのめされている」と語る。ラーソン氏の団体では、今年7月24日までに1496件ものペット引き取りの申し込みを受け付けており、これは前年同期の1292件を大幅に上回る数字だ。中には一度に複数のペットを手放す飼い主もいるという。

大型犬を巡る新たな課題と保護施設の現状

ミネソタ州の同団体は、比較的規模の大きい一時預かりネットワークを運営しているにもかかわらず、保護を必要とするペットの多さ、特に大型犬の受け入れに苦慮している状況だ。ラーソン氏は、「地元の保護団体に連絡しても、大型犬の預かり主が不足しており、皆ある種のパニック状態にある」と現状を明かす。大型犬は食べる量が多く、医療費も高額になりがちで、また飼育が許可されていない集合住宅も多いため、飼い主が経済的な理由から大型犬を手放さざるを得ない状況に追い込まれるケースが少なくない。全米の保護施設は、増加し続けるペットの引き取り要請にひっ迫しており、その対応能力は限界に近づいている。

米国で急増するペット放棄の背景には、インフレや失業、住居問題といった深刻な経済的要因がある。飼い主が苦渋の決断を迫られる一方、全国の動物保護施設はかつてないほどの負担に直面し、その対応能力は限界に近づきつつある。この問題は、単にペットの福祉に留まらず、広範な社会経済情勢が個々の家庭と生命に与える影響を浮き彫りにしている。

参考資料