2024年12月29日、韓国・務安国際空港で発生した済州航空7C2216便の事故について、航空・鉄道事故調査委員会は、エンジン損傷後のパイロットによる緊急対応の誤りが事故原因であるとの見解を示しました。具体的には、バードストライクで損傷し火災が発生していた右側エンジンではなく、誤って左側のエンジンを停止させていたと結論付けています。この発表は遺族を対象に行われましたが、遺族からの反発により記者会見は見送られました。
務安国際空港の滑走路に胴体着陸した済州航空機の事故現場、調査開始直後の様子
事故調査委員会の詳細な結論
事故調査は韓国が主導し、アメリカ、フランスの調査当局、そしてエンジン製造元のフランス・サフラン社が参加する合同調査団が編成されました。2025年5月12日から6月4日までの18日間、フランスでエンジンの精密検査が実施されました。その結果、エンジン自体に製造上の欠陥は確認されませんでした。しかし、左右両方のエンジンに鳥との衝突による損傷が認められ、特に右側のエンジンの内部損傷がより深刻であることが判明しました。事故発生時、両エンジンには振動があったものの、飛行可能な状態で作動していました。
詳細な分析により、右エンジンでは圧縮機の損傷が原因で「サージ」と呼ばれる異常燃焼現象が発生し、大きな火炎に至ったとされています。航空・鉄道事故調査委員会は、コックピット音声記録装置(CVR)、飛行データ記録装置(FDR)、そしてエンジン精密検査の結果から、パイロットが緊急事態を宣言した後の手順において、火災を起こしていた右側エンジンではなく、誤って左側のエンジンを停止させていたことを確認しました。
パイロットの判断ミスとその他の要因
事故機は右エンジンに異常を抱えたまま、務安国際空港の19番滑走路に胴体着陸しました。音響分析の結果、着地直前まで右エンジンが飛行可能な出力で稼働していたことが確認されており、このことから事故調査委員会はパイロットの判断ミスが事故を招いた主要因と見ています。一部報道では、左側エンジンと連動する「ファイヤーハンドル」(火災時に燃料供給を遮断する装置)が引かれていたことが確認されています。航空業界の非常マニュアルでは、火災が検知された際にファイヤーハンドルを操作するよう定めており、パイロットが火災拡大を防ぐために左エンジンを停止した可能性も指摘されています。
また、事故調査委員会は、機内の電力供給停止やランディングギア(着陸装置)が作動しなかった点についても、誤ったエンジン停止によって電力が供給されなくなったことが原因であると説明しています。
関係者の反応と今後の課題
この調査結果に対し、遺族側は強い反発を示しています。遺族会のキム・ユジン代表は、「事故原因の調査過程と証拠となる事実を明確に公開すべきだ」と述べ、遺族も参加できる公聴会の開催を強く求めています。
一方、パイロット労働組合連盟は、事故調査委員会の発表が「パイロットの緊急処置に関する正確なデータを示さず、エンジンを停止したという一点だけを強調している」と批判しています。さらに、「務安空港は他の空港と異なり、空港全体が国土交通省の管理下にある。国も事故の責任から自由ではない」と述べ、国の管理体制にも責任があるとの見解を示し、今後の議論の焦点となる可能性を提起しています。
まとめ
済州航空機務安空港事故に関する航空・鉄道事故調査委員会の最終結論は、バードストライクによるエンジン損傷に加え、パイロットが火災発生側のエンジンを誤って停止させたことが事故の決定的な要因であると指摘しています。しかし、遺族やパイロット組合からは、調査の透明性や結論の公平性、そして空港管理体制への国の責任を問う声が上がっており、今後の展開が注目されます。
参考文献:
- KOREA WAVE/AFPBB News (2024年7月28日). 「済州航空機事故、パイロットが誤ってエンジン停止」. [記事へのリンク]
- NEWSIS (2024年12月30日). 務安国際空港 事故直後の滑走路の様子.