2025年11月5日と6日に神戸で開催された3人組ユニットNumber_iのライブは、その圧倒的なパフォーマンスで大盛況を博しました。しかし、彼らの最新楽曲「幸せいっぱい腹一杯」の一節が現在、激しい議論を巻き起こしています。発端となったのは、11月1日に放送された音楽番組『Venue 101 Presents Number_i THE LiVE』(NHK)での披露でした。Number_iとファンが一体となって盛り上がったこの特別ライブで、ある特定の歌詞がSNS上で厳しい批判の対象となっているのです。
ポカホンタス表現が問う歴史的背景と現代の認識
物議を醸しているのは、9月リリースのアルバム『No.II』に収録されている平野紫耀さんプロデュース楽曲「幸せいっぱい腹一杯」の歌詞に登場する「他力本願な思考はポカホンタス」というフレーズです。放送後、SNSでは「ポカホンタスをこの文脈で持ってくるのはマズい」「歴史を知らずに使っているのでは」といった声が上がり、この言葉の持つ意味に対する認識不足が指摘されました。
「ポカホンタス」は、17世紀に実在したアメリカ先住民の女性の名前であり、先住民と入植者の共存の象徴として語られることもありますが、その文脈を無視した使用は、時に差別的な表現と受け取られることがあります。2016年には、当時のトランプ米大統領がエリザベス・ウォーレン上院議員を揶揄する際にこの言葉を用い、先住民団体から大きな抗議を受けた経緯があります。関西国際大学の遠藤泰生客員教授は、ポカホンタスの物語が「遅れた」先住民を「進んだ」文明に誘った入植者の行いを評価する視点を含みうるため、安易な使用は先住民の感情を逆撫でする危険性があると指摘しています。
Number_iのメンバーがステージでパフォーマンスする様子
「他力本願な思考」とポカホンタスの生き方を不用意に結びつけることは、歴史的背景への配慮を欠き、特定の民族に対する誤解や偏見を助長しかねません。こうした言葉の選択が、意図せずとも大きな波紋を呼ぶ可能性があることを、今回の件は浮き彫りにしています。アーティストの表現は自由であるべきですが、その影響力を考慮し、歴史や文化に対する深い理解が求められる時代と言えるでしょう。
相次ぐ芸能界の表現問題:Mrs. GREEN APPLE、Snow Manとの比較
近年、日本の芸能界では、歴史的背景や文化的感受性に関わる表現が問題視され、謝罪に至るケースが相次いでいます。2024年6月には、3人組ロックバンドMrs. GREEN APPLEの楽曲「コロンブス」のミュージックビデオが炎上しました。クリストバル・コロンのような姿のメンバーが類人猿に人力車を引かせる描写が、歴史的文脈における植民地主義や人種差別を想起させると批判され、バンド側は配慮不足を認め謝罪しました。
また、同年10月にはSnow Manの公式YouTubeチャンネルで公開された楽曲「KATANA」のプロモーション映像において、「岡村寧次」(正しくは「崗村寧次」)という旧日本軍の指揮官の名前が刻まれた刀が映し出され、中国侵略を指揮した人物であることから、歴史的事象への配慮に欠けるとの批判を受けました。所属レコード会社はこれに対し謝罪する事態となりました。
これらの事例は、いずれも映像表現が主な問題点であり、今回のNumber_iの歌詞問題とは形式が異なります。しかし、共通しているのは、アーティストが世に出す作品が、意図せずとも歴史的・社会的な文脈と結びつき、特定の層に不快感を与えたり、議論を呼んだりする可能性があるという点です。国際的な活動が増える中で、こうした配慮の重要性は一層高まっています。
世界地図と多文化の象徴的な要素を組み合わせたイメージ
海外活動を見据えるNumber_iへの影響とTOBEの声明
Number_iは2024年6月にロサンゼルスで開催された音楽フェスティバル「HEAD IN THE CLOUDS」に出演するなど、海外での活動を積極的に拡大しています。今回の楽曲のテイストから、制作陣やメンバーに差別的な意図があったとは考えにくいものの、海外での活動が増えるにつれて、言葉一つ一つが予期せぬ解釈や批判を招くリスクは増大します。異なる文化圏では、日本国内では問題とならない表現が、歴史的・社会的な背景から敏感に受け止められる可能性があるため、歌詞における言葉選びの慎重さは、国際的なアーティストにとって不可欠な要素となります。
本誌「Smart FLASH」の取材に対し、Number_iの所属事務所TOBEの代理人弁護士からは、次のような回答が寄せられました。「指摘を受けた表現につきまして、特定の人物、民族、文化、ジェンダー等を揶揄し、又は差別する意図をもって使用したものではございません。一方で、その受け取られ方についてさまざまなご意見があることも真摯に受け止めております。弊社といたしましては、今後も多様な文化や価値観への配慮を意識しながら、表現のあり方について慎重に検討を重ねてまいります。」この声明は、差別意図を否定しつつも、受け手の多様な意見を尊重し、今後の表現活動においてより一層の配慮を誓う姿勢を示しています。
多様な人々が手を取り合うグローバルな共同体のイメージ
結論
Number_iの楽曲「幸せいっぱい腹一杯」の歌詞を巡る今回の騒動は、エンターテインメント業界における表現の自由と、社会の多様な価値観、歴史的背景への配慮との間で生じるデリケートな課題を改めて浮き彫りにしました。特定の言葉が持つ多義性や、文化・歴史的文脈における受け止め方の違いを理解することは、現代のアーティストにとって不可欠な資質です。
Number_iは2025年10月に結成2周年を迎え、今後も多くの楽曲をリリースし、国内外での活躍が期待されます。今回の経験は、彼らがグローバルなアーティストとして成長していく上で、歌詞や映像といったあらゆる表現において、より一層の注意と深い考察が求められることを示唆しています。読者一人ひとりが、作品に込められたメッセージだけでなく、使用される言葉の背景にある歴史や文化にも意識を向けるきっかけとなることを願います。
出典:Yahoo!ニュース / Smart FLASH





