トランプ外交が早期停戦実現に向け圧力を強める中、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ侵攻を停止する気配を見せず、ホワイトハウスの苛立ちを募らせています。この揺るぎない強硬姿勢の背景には何があるのでしょうか。「外交は内政の延長である」という国際的格言を切り口に、プーチンが2024年3月の大統領選で通算5期目の当選を果たし、現在推し進めている国家改造戦略にその源泉を見出すことができます。この戦略は、プーチン政権の行動を理解する上で極めて重要です。
プーチンが目指す「専制的軍事国家」と「要塞化」戦略
プーチン大統領が国家改造の到達点として見据えているのは、西側民主主義陣営と対峙する専制的軍事国家の建設です。彼の現任期は2024年5月から2030年までの6年間ですが、憲法規定によりさらにもう1期、2036年まで大統領の座にとどまることが可能です。この長期的な視野のもと、政治・社会面で米欧的価値観を排除し、「ロシアの要塞化」とも呼べる国家改造を完遂する意向であると分析されています。
「要塞」を内側から固めるため、政権は「欧米は伝統的にルッソフォビア(ロシア嫌悪症)である」との欧米主敵論を国民に植え付けながら、世論への締め付けも図ってきました。2022年2月に始まったウクライナ侵攻に象徴される対西側強硬外交と、国内での弾圧強化が車の両輪のようにセットになって、この「要塞化」は進められているのです。
ロシアのプーチン大統領とスターリンの比較写真、政権の「要塞化」と「ミニ・スターリン化」を示す
「要塞化」の急加速と政権の「変質」を示す事態
しかし、ここへきて異変が起きつつあります。「要塞化」の動きが多方面で急テンポに拡大しており、ロシアの反政権派論客さえ驚くほどの事態となっています。これは単なる国家改造の進行にとどまらず、「政権変質」と呼ぶべきレベルに達していると言えるでしょう。
この政権変質を象徴する事態が2025年7月初めに発生しました。プーチン大統領から運輸相の職を解かれたばかりのロマン・スタロボイト氏の遺体が7日、モスクワ郊外で見つかり、自殺と発表されたのです。スタロボイト氏は2024年5月の運輸相就任までロシア西部クルスク州で知事を務めており、同州でのウクライナ国境防衛施設の建設に絡む汚職捜査が迫っていたとの情報も浮上しています。このような高官の不可解な死は、政権内部の締め付けと「要塞化」の加速がもたらす極度の緊張状態を示唆しています。
結論
プーチンのウクライナに対する強硬姿勢は、単なる外交・軍事戦略に留まらず、内政における「国家改造戦略」の延長線上にあります。西側との決別を目指し、専制的軍事国家の「要塞化」を急ピッチで進めるプーチン政権は、その過程で内部の締め付けを強化し、「政権変質」とも呼べる状況を生み出しています。ロマン・スタロボイト氏の死は、この「要塞化」と変質の進行を象徴する出来事であり、今後のロシアの内情が国際社会に与える影響は計り知れません。
参考文献:
- Yahoo!ニュース. (2025年7月28日). プーチンはミニ・スターリン化に動き出している. https://news.yahoo.co.jp/articles/adea0883e4ce860f3eb81ea2a83caf5660a56d75
- (参考)大統領選「5勝」のプーチンが乗り出す世界戦略 西側と決別、12年かけ「軍事国家」の完成目指す. (2024年3月22日).