「移民」で一括りにするな!日本が学ぶべき外国人受け入れの論点と欧州の現実

日本では参議院選挙において、外国人受け入れに関する激しい議論が交わされました。しかし、多くのメディアや政治家が、合法的な移民、難民、そして不法移民を混同して「移民」という一言で表現する傾向が見られます。世界中で高度な技能や学歴を持つ人材をめぐる競争が激化する現代において、日本の外国人受け入れに関する議論でこれらの異なるカテゴリを混同することは、国の将来にとって看過できない問題です。

外国人という大きな括りの中でも、その法的地位や背景には大きな違いがあります。これらを正確に理解することが、建設的な議論の第一歩となります。

「合法移民」「難民」「不法移民」の明確な定義

外国人受け入れの議論を深めるためには、それぞれの言葉が指す意味を正確に把握することが不可欠です。

合法的な移民とは

合法的な移民(legal immigrant)とは、滞在先の国の政府から正式な滞在許可や労働許可を得て、その国に暮らす外国人を指します。彼らは社会保険料や税金を納め、現地の法律を遵守し、社会の価値観や習慣を尊重しながら生活しています。筆者が在住するドイツは、カナダなどと同様に自国を「移民国家」と明確に定義しており、この国に暮らす外国人の大多数は、このような合法的な移民です。彼らは国の経済や社会に貢献する存在として位置づけられています。

難民とは

難民(refugee)は、戦争、内乱、政治的迫害などから逃れて他国に亡命を求める人々です。多くの場合、財産をほとんど持たずに避難してくるため、当初は生活保護に頼らざるを得ない状況に置かれることが少なくありません。国際法や各国の国内法に基づき、保護の対象となる人々です。

不法移民とは

不法移民(illegal immigrant)とは、滞在許可を持たずに外国に不法に入国したり、滞在許可の期限が切れても帰国せずに滞在を続ける外国人を指します。彼らは当局に発見され次第、出身国に強制送還される対象となります。彼らの存在は、入国管理や治安の面で課題を提起します。

日本の多様な外国人コミュニティ、それぞれの背景を理解する必要性日本の多様な外国人コミュニティ、それぞれの背景を理解する必要性

日本における混同の危険性とその影響

日本の政党のウェブサイトや多くのメディアでは、しばしば合法的な移民、難民、不法移民が「移民」という単一の言葉で一括りにされ、その違いが曖昧に表現されています。例えば、「海外では急激な移民増加により社会が不安定化し、移民受け入れ規制の方向に進んでいる」といった記述が見られますが、この「移民」がどのカテゴリの外国人を指すのか不明瞭です。

このような曖昧な表現は、「全ての移民が社会にとって悪い存在である」かのような誤った印象を与えかねません。合法的に働き、税金を納め、社会に貢献している外国人までもが、一括りにされてネガティブなイメージを持たれることに対し、本稿では強い懸念を表明します。正確な情報と区別に基づく議論が不可欠です。

欧州(ドイツ)の対応に学ぶべき点

欧州では、難民や不法移民と、合法的な移民に対する政府の対応は明確に異なっています。ドイツ政府は、憲法第16条の規定に基づき、戦争や政治的迫害の被害者を亡命者として保護しています。しかし、戦争や政治的迫害がない国からの外国人に対しては亡命を認めません。

さらに、欧州連合(EU)には「ダブリン協定」という規則があり、亡命希望者は最初にEUに入域した国で亡命申請を行う必要があります。現在、ドイツを含むEU加盟国が取り組んでいるのは、亡命資格のない外国人の受け入れ規制強化や、亡命申請が却下されたり、犯罪を犯した外国人の国外追放の強化です。また、EU周辺部に亡命申請の審査を行うための収容施設を設置し、加盟国への原則的な入国をさせないようにすることも検討されています。

ドイツで生活する難民の様子、多様な背景を持つ人々を受け入れる欧州の姿勢ドイツで生活する難民の様子、多様な背景を持つ人々を受け入れる欧州の姿勢

日本の外国人受け入れ議論の未来:多角的な視点の重要性

日本の外国人受け入れを巡る議論は、人口減少や労働力不足といった喫緊の課題と密接に結びついています。多様な背景を持つ外国人を一括りにして議論することは、問題の本質を見誤り、日本にとって真に必要な人材の受け入れを阻害するリスクを孕んでいます。

欧州、特にドイツの事例が示すように、それぞれのカテゴリの外国人に異なる政策で対応することは、社会の安定と国の発展の両立に不可欠です。日本も、感情論や誤解に基づく議論ではなく、合法的な移民、難民、不法移民という明確な区別に基づいた、より戦略的かつ多角的な外国人受け入れ政策を構築していくべき時を迎えています。これにより、グローバルな人材獲得競争においても優位に立ち、持続可能な社会の実現に貢献できるでしょう。


参考文献: