2024年4月に内臓脂肪を減らす市販薬「アライ」が発売されて以来、その効果と安全性に関する議論が活発に行われています。ドラッグストアでは「食欲を抑える」「脂肪の燃焼を促進する」「代謝を上げる」と謳う様々な健康補助食品(サプリメント)が数多く並び、「飲むだけで簡単に痩せる」という期待を抱かせるものも少なくありません。しかし、これらの市販薬やサプリメントは、本当に私たちの減量をサポートし、健康に寄与するのでしょうか。本記事では、内科医である奥田昌子医師の新著『これをやめれば痩せられる』で示されている科学的根拠に基づき、抗肥満薬やサプリメントの真の期待効果について深掘りします。
薬局で手に入る抗肥満薬「アライ」の役割と限界
2024年4月に発売された新しい抗肥満薬「アライ」は、医師の処方箋なしで薬局で購入できる点が大きな注目を集めています。世界120カ国以上で販売実績があるものの、この薬剤はあくまで「肥満の予防薬」であり、「病気の治療薬」ではないという重要な点が指摘されています。この区別を理解することが、「アライ」の適切な使用と効果への期待値を把握する上で不可欠です。病気としての肥満、すなわち「肥満症」ではない、いわゆる一般的な肥満に対する補助的な役割を持つとされています。
肥満と「肥満症」の違いを理解する
肥満は、その程度によって「肥満」と「肥満症」に分類されます。一般的に、BMI(ボディマス指数)が25以上であれば「肥満」と診断されますが、これは必ずしも病気ではありません。例えば、筋肉量が非常に多いプロの格闘家などは、BMIが25を超えていても、体脂肪の過剰な蓄積がないため肥満とはみなされません。
これに対し、「肥満症」は、肥満に加えて高血圧、糖尿病、脳梗塞、脂肪肝などの健康障害を併発している状態を指し、医学的な治療が必要な「病気」です。前述の「アライ」が「治療薬ではない」とされるのは、この「肥満症」と診断された段階では、同薬の有効性が期待できないためです。したがって、薬剤の選択にあたっては自身の健康状態を正確に把握し、専門家と相談することが極めて重要になります。
サプリメントの減量効果に対する科学的視点
ドラッグストアなどで見かける「食欲を抑える」「脂肪の燃焼を促進する」「代謝を上げる」といった謳い文句のサプリメントも多く存在します。しかし、奥田昌子医師が指摘するように、「飲むだけで痩せる」というような、魔法のようなサプリメントは科学的に存在しません。これらの製品はあくまで「健康補助食品」であり、医薬品とは異なる位置づけです。サプリメントは、食生活の補助や栄養バランスの改善には役立つことがありますが、それ単独で大幅な体重減少をもたらすことは期待できません。減量においては、科学的根拠に基づいた適切な食生活の見直しや運動習慣の確立が不可欠であり、サプリメントはその補助的な役割に留まるべきです。
手元に握られたサプリメントのボトル。安易な減量法への疑問を提起するイメージ
科学的根拠に基づいた減量法
奥田医師の新著『これをやめれば痩せられる』では、日本人が最も効率よく痩せるための具体的な方法が、科学的根拠に基づいて詳細に紹介されています。これは、一過性の流行に流されることなく、持続可能で健康的な減量を目指す上で非常に有用な情報源となります。体重管理は、単に外見の問題だけでなく、将来の健康リスクを軽減するための重要な取り組みです。安易な方法に飛びつくのではなく、専門家の知見や科学的な情報を参考に、自身の体と向き合う姿勢が求められます。
まとめ:安易な減量法への警鐘と賢い選択
市販の減量薬「アライ」や様々なサプリメントの登場は、手軽に痩せたいという人々のニーズに応えるものですが、その効果や役割には明確な限界があります。「アライ」は「予防薬」であり「肥満症」の治療薬ではないこと、そして「飲むだけで痩せるサプリメントは存在しない」という科学的な事実は、私たちが減量と向き合う上で非常に重要な教訓となります。
真の健康的な減量は、単一の製品に頼るのではなく、個人のライフスタイル、身体状態、そして科学的根拠に基づいた食事、運動、そして必要に応じた専門家によるアドバイスの組み合わせによって達成されます。安易な情報に惑わされず、正確な知識を身につけ、自身の健康に責任を持つことが、持続可能な減量への第一歩となるでしょう。
参考資料
- 奥田昌子 著 『これをやめれば痩せられる』(日本経済新聞出版)