老後資金2000万円は現実的?年金と合わせた夫婦の老後生活を徹底シミュレーション

老後の経済的な不安は、多くの日本人にとって共通の悩みです。特に「老後2000万円問題」が提起されて以来、漠然とした不安を抱えながら、その目標額を貯蓄しようと努力している方も少なくないでしょう。しかし、実際に2000万円以上の老後資金を保有している世帯はどれくらい存在するのでしょうか。また、仮に2000万円の資金があったとして、公的年金と合わせて、夫婦でゆとりある老後を送ることは本当に可能なのでしょうか。

本記事では、内閣府と厚生労働省の最新データに基づき、2000万円以上の老後資金を貯めている世帯の割合を明らかにし、さらに夫婦で月15万円の年金収入を想定した具体的な生活費シミュレーションを行います。これにより、老後の生活設計における現実的な視点と、今後の資産形成に向けたヒントを提供します。

老後の資金について話し合う高齢者夫婦のイメージ老後の資金について話し合う高齢者夫婦のイメージ

実際の老後資金2000万円以上保有世帯は少数派

まず、実際に老後資金として2000万円以上の金融資産を保有している世帯が、どの程度の割合を占めているのかを確認しましょう。内閣府が実施した「令和6年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)の結果」によると、高齢者世帯における金融資産保有額の分布は以下の通りです。このデータは、配偶者がいる場合は世帯合計での金融資産額を集計しています。

  • 老後の世帯金融資産総額の分布
    • 0万円:5.3%
    • 1~500万円未満:16.0%
    • 500~1000万円未満:12.5%
    • 1000~2000万円未満:14.4%
    • 2000~3000万円未満:9.5%
    • 3000~5000万円未満:8.0%
    • 5000万円以上:6.7%
    • 不明・無回答:27.6%
    • 平均値:1769万円

このデータから、2000万円以上の金融資産を保有している世帯(2000万円以上3000万円未満、3000万円以上5000万円未満、5000万円以上の合計)は、わずか24.2%に過ぎないことがわかります。つまり、2000万円という目標額を達成している高齢者世帯は、全体の約4分の1にとどまり、多数派ではないのが現状です。平均値も1769万円となっており、2000万円を下回っています。この数字は、多くの人が老後資金の準備に課題を抱えている現実を示唆しています。

公的年金の平均受給額を知る:夫婦の年金生活の基礎

老後の生活費を考える上で、公的年金は重要な柱となります。全ての生活費を貯蓄で賄う必要はなく、年金収入がベースとなるため、その受給額を正確に把握しておくことが不可欠です。厚生労働省年金局が公表した「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金受給者の平均年金月額は以下の通りです。

  • 厚生年金受給者の年金受給額(額面、厚生年金+国民年金)
    • 月額1万円未満:0.28%
    • 月額1万円以上2万円未満:0.09%
    • 月額2万円以上3万円未満:0.31%
    • 月額3万円以上4万円未満:0.58%
    • 月額4万円以上5万円未満:0.61%
    • 月額5万円以上6万円未満:0.85%
    • 月額6万円以上7万円未満:2.34%
    • 月額7万円以上8万円未満:3.97%
    • 月額8万円以上9万円未満:5.44%
    • 月額9万円以上10万円未満:6.73%
    • 月額14万円以上15万円未満:5.89%
    • 月額25万円以上26万円未満:0.75%
    • 月額26万円以上27万円未満:0.45%
    • 月額27万円以上28万円未満:0.25%
    • 月額28万円以上29万円未満:0.13%
    • 月額29万円以上30万円未満:0.06%
    • 月額30万円以上:0.09%
    • 平均年金月額:14万3973円

この平均額は、会社員や公務員として厚生年金に加入していた人のもので、国民年金のみの自営業者や専業主婦は、受給額がより少なくなります。国民年金の満額受給額は月額6万9308円(令和6年度)です。厚生年金の平均月額が約14.4万円であることから、夫婦二人の年金収入が月15万円というケースは、片方が厚生年金、もう片方が国民年金、あるいは夫婦ともに厚生年金加入期間が短めといった場合に起こりうる、現実的な想定額と言えるでしょう。

2000万円の老後資金と年金15万円で夫婦は生活できるか?シミュレーション

では、仮に老後資金として2000万円の貯蓄があり、夫婦二人の年金収入が月15万円だった場合、実際に老後生活は成り立つのだろうかという疑問に答えるため、具体的なシミュレーションを行います。

総務省の家計調査報告(2023年・二人以上の世帯のうち無職世帯)によると、高齢夫婦世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの世帯)の平均的な消費支出は約26万円です。年金収入が月15万円の場合、毎月不足する金額は、26万円 – 15万円 = 11万円となります。

この月11万円の不足分を貯蓄2000万円から賄っていくと仮定した場合、年間で必要となる貯蓄の取り崩し額は、11万円 × 12ヶ月 = 132万円です。
2000万円の貯蓄が尽きるまでの期間は、2000万円 ÷ 132万円/年 ≒ 約15.15年となります。

もし夫婦が65歳で定年を迎え、年金生活に入ったとすると、約15年後の80歳前後で貯蓄が底をつく計算になります。現在の平均寿命は男性が81歳台、女性が87歳台であり、人生100年時代と言われる中、80歳以降も生活が続く可能性は十分にあります。医療費や介護費用といった予期せぬ大きな支出が発生すれば、さらに早く貯蓄が尽きる恐れもあります。

このシミュレーションはあくまで平均値に基づいたものであり、個々の生活スタイル、住居費、医療・介護の状況、娯楽費などによって必要となる生活費は大きく変動します。しかし、平均的な支出で考えると、2000万円の老後資金と夫婦で月15万円の年金収入だけでは、平均寿命まで安心して生活を送るには不足する可能性が高いという現実が浮き彫りになります。

老後の資金計画を成功させるための視点

上記のシミュレーションから、老後資金2000万円は決して十分な金額ではないことが理解できます。しかし、これは絶望する理由ではなく、現実を直視し、より堅実な資金計画を立てるための出発点と捉えるべきです。

老後の資金計画を成功させるためには、以下の視点を持つことが重要です。

  • 早期からの資産形成と分散投資の推進: 若い時期から少額でも積立投資を始め、リスクを分散しながら資産を増やす努力を続けることが、老後資金の目標達成に繋がります。NISAやiDeCoといった税制優遇制度の活用も有効です。
  • 年金以外の収入源の確保: 定年後も働く、趣味や特技を活かして副収入を得る、不動産収入や配当収入を増やすなど、年金だけに頼らない収入源を複数持つことで、経済的な安定度を高めることができます。
  • 生活費の見直しと削減: 現役時代から無駄な支出を把握し、老後に向けた生活費の削減目標を設定することが重要です。特に住居費や通信費など、固定費の見直しは大きな効果をもたらします。
  • 専門家への相談: ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談し、自身の状況に合わせた具体的な老後資金計画を立てることも有効です。年金制度や資産運用の知識を深める上でも役立ちます。

結論

「老後2000万円問題」は、単なる貯蓄額の目標ではなく、老後の生活設計における重要な警鐘です。内閣府の調査が示すように、2000万円以上の老後資金を保有している世帯は少数派であり、平均的な年金収入と合わせたシミュレーションでは、平均寿命まで資金が持たない可能性が高いという現実があります。

老後資金2000万円は、あくまで最低限の目安と捉え、自身の生活スタイルや希望する老後像に合わせて、より余裕を持った資金計画を立てる必要があるでしょう。公的年金を基盤としつつ、現役時代からの計画的な資産形成、年金以外の収入源の確保、そして生活費の見直しを通じて、不安の少ない豊かな老後を実現するための具体的な行動を今から始めることが、何よりも重要です。

参考文献

  • 内閣府「令和6年度 高齢社会対策総合調査(高齢者の経済生活に関する調査)の結果(全体版)」
  • 厚生労働省年金局「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」
  • 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)」