春ねむり「IGMF」炎上と参政党さや氏演説:著作権法は?

シンガーソングライターの春ねむりさんが発表したラップソング「IGMF」が、その歌詞と使用された音声によって大きな波紋を呼んでいます。「ホラー映画より怖いさや」といった衝撃的なフレーズが話題を集め、この楽曲は一時的に配信プラットフォームから削除される事態となりましたが、現在は再配信されています。この曲が特に注目されるのは、先の参議院議員選挙で大躍進を遂げた参政党のさや氏の選挙演説音声が使用されている点です。政治と音楽、そして著作権を巡る議論が活発化する中、公開された政治演説の音声利用について法的な視点から解説します。

音楽と政治の「交差点」:春ねむり「IGMF」の衝撃

2022年7月22日に発表された春ねむりさんの楽曲「IGMF」は、そのリリース直後からSNSを中心に大きな議論を巻き起こしました。曲の冒頭には、さや氏が選挙期間中に語った「明日、必ず勝利を手にして、私を皆さんの、皆さんのお母さんにしてくださいー!」という、当時も話題になったスピーチ音声が用いられています。この音声に続く「きゃー!」という叫び声、そしてさや氏への激しい怒りをぶつけるラップは、聴く者に強い印象を与え、賛否両論が渦巻く結果となりました。楽曲が一時的に配信停止となったことも、その影響力の大きさを示唆しています。この出来事は、芸術表現が政治的メッセージを帯びた際に生じる社会的な反響を浮き彫りにしています。

春ねむりさんの楽曲「IGMF」のイメージ。参政党さや氏への怒りを表現したラップソングの視覚化。春ねむりさんの楽曲「IGMF」のイメージ。参政党さや氏への怒りを表現したラップソングの視覚化。

参政党の大躍進と「日本人ファースト」の議論

楽曲「IGMF」が注目される背景には、2022年の参議院議員選挙における参政党の目覚ましい躍進があります。さや氏が東京選挙区で約66万票を獲得し、2位当選を果たしたことは、同党の存在感を一気に高めました。参政党が掲げるキャッチコピー「日本人ファースト」は、選挙期間中から国内外で盛んに議論され、政治に関心を持つ人々からの注目を集めました。この参院選は投票率が58.51%と、2010年以降で最も高い水準を記録しており、国民の政治への関心の高まりがうかがえる結果となりました。このような状況下で、政治家個人の言動や政治的メッセージを扱った楽曲が発表されたことは、社会的な関心事をより一層、視覚的・聴覚的に体験させる契機となりました。

公開された政治演説の著作権:法的解釈

SNS上では政治に関する楽曲や動画などの表現が活発化しており、候補者の演説音声や演説動画の利用が法的に問題ないのかという疑問が生じています。この点について、著作権法の観点から明確な見解を示すことができます。

結論として、公開して行われた政治上の演説は、著作権侵害にならずに利用することが可能です。 著作権法第40条第1項には以下のように明記されています。

「公開して行われた政治上の演説又は陳述及び裁判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続を含む。第41条第2項において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。」

この条文は、公の場で行われる政治的演説や裁判手続きにおける陳述が、原則として自由に利用できることを定めています。通常、スピーチや講演、セミナーなどの口頭表現は、思想や感情が独自の創造性をもって表現されていれば、「小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物」として著作権法によって保護されます。しかし、政治演説に関しては、その公共性や国民の知る権利を考慮し、上記のような特例が設けられているのです。したがって、春ねむりさんの楽曲におけるさや氏の選挙演説音声の利用は、この法律に照らせば著作権上の問題は生じないと解釈されます。

まとめ

春ねむりさんの楽曲「IGMF」を巡る騒動は、音楽を通じた政治的表現のあり方、そしてその表現が社会に与える影響について改めて考える機会を提供しました。特に、選挙演説のような公共性の高い言論が著作権法の保護範囲においてどのように位置づけられるのかという法的問題は、表現の自由と著作権のバランスを理解する上で重要です。著作権法第40条第1項により、公開された政治演説は原則として自由に利用できることが明確にされており、これは民主主義社会における情報共有と議論の活性化に寄与するものです。