中国映画「731」公開延期:高まる歴史認識と政府の懸念

中国で旧日本軍の731部隊を題材とした映画「731」の公開が延期される見通しが強まっています。当初31日に予定されていた公開が、30日時点でチケット販売アプリの広告から公開日が削除され、前売り券の販売も始まっていません。この動きは、中国当局が作品による過度な反日感情の高まりを懸念しているためではないか、との見方が広がっています。

映画「731」の背景と公開延期の状況

映画「731」は、吉林省出身の趙林山氏が製作を手掛けた作品です。日中戦争中に旧満州(中国東北部)で細菌兵器の開発を行ったとされる旧日本軍731部隊による「残酷な人体実験の罪状を暴く」内容と報じられています。中国メディアを通じて広く紹介され、その内容の衝撃性から公開前から大きな注目を集めていました。しかし、具体的な公開日が表示されなくなった現状は、政府の介入を示唆しており、その背景には微妙な外交的配慮がある可能性が指摘されています。

ネット上の賛否と高まる世論の動向

インターネット上では、映画「731」の予告編を見たユーザーから様々な意見が寄せられています。「いつまでも恨み続けるべきではない」「残酷すぎて子どもには見せられない」「反日感情をあおるだけだ」といった批判的な声が上がる一方で、「歴史を忘れてはならない」「日本に配慮する必要はない」と公開を求める声も少なくありません。こうした意見の交錯は、中国国内における歴史認識の複雑さを浮き彫りにしています。中国の映画サイトでは、公開前の映画としては異例の約300万人が「見たい」と表明し、その注目度の高さを示しています。

抗日戦争勝利80周年と歴史意識の再燃

今年は、中国にとって「抗日戦争勝利80周年」という歴史的な節目にあたり、旧日本軍731部隊への関心もかつてなく高まっています。実際、黒竜江省ハルビンにある「侵華日軍第七三一部隊罪証陳列館」には、18日には入館を待つ長蛇の列ができるなど、多くの人々が歴史に触れようとしています。

また、北京では9月3日に抗日戦争勝利80周年の記念行事が予定されており、ロシアのプーチン大統領らが出席する軍事パレードも計画されています。さらに、「南京事件」をテーマにした映画も今月25日に公開され、チケット売り上げランキングでトップを維持するなど、抗日をテーマとした作品への関心は非常に高い状況です。

中国の国旗。中国映画「731」の公開延期と、それを取り巻く日中間の歴史認識や反日感情の高まりを示す象徴的な画像。中国の国旗。中国映画「731」の公開延期と、それを取り巻く日中間の歴史認識や反日感情の高まりを示す象徴的な画像。

在留邦人への注意喚起と反日感情の背景

このような状況を受け、在北京日本大使館は今月23日、9月にかけて反日感情が高まる可能性に注意を促し、特に子ども連れでの外出には十分な対策を取るよう在留邦人に呼びかけました。

昨年9月18日には、満州事変の発端となった柳条湖事件から93年を迎える日に、広東省深圳で日本人男児が中国人の男に殺害される事件が発生しました。男は死刑が執行されましたが動機は不明のままでした。しかし、事件現場に献花に訪れた多くの深圳市民が、抗日映画や過度な「反日教育」の影響を指摘していたことは記憶に新しい出来事です。

結論

映画「731」の公開延期は、単なる上映スケジュールの変更に留まらず、中国政府が国民の歴史認識と反日感情のバランスをどのように管理しようとしているかを示す動きと見られます。抗日戦争勝利80周年という節目において、歴史問題が日中関係に与える影響は依然として大きく、今後の動向が注目されます。


参考文献: