「最近疲れやすくなった」「将来、寝たきりになるのでは」「介護で家族に迷惑をかけたくない」――。高齢期に差し掛かるにつれ、このような不安を抱える方は少なくありません。しかし、年を重ねて体が変化するのは自然なこと。大切なのは、その変化をどう受け入れ、どのように対処していくかです。本記事では、高齢医学を専門とする精神科医、和田秀樹氏の著書『80歳で体はこう変わるからやっておきたいこと』を基に、高齢者のうつ病予防に焦点を当て、いつまでも心身ともに健康でいるための具体的な習慣をご紹介します。
うつ病は予防できる病気なのか?
多くの人が「うつ病は防ぎようがない」と考えがちですが、実は予防策が存在します。完全に防げる病気とは言えませんが、動脈硬化と比較しても、より高い確率で予防できることがわかっています。日々の生活に予防策を取り入れることで、高齢期の心の健康を大きくサポートできるでしょう。
脳内の「幸せホルモン」セロトニンを増やす食事法
うつ病対策として非常に効果的なのが、脳内の神経伝達物質である「セロトニン」を増やすことです。セロトニンは別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、心の安定やリラックス、そして精神的な充足感に不可欠な物質です。
セロトニンの材料となるのは、必須アミノ酸の一種である「トリプトファン」です。このトリプトファンは、人間の体内で生成することができないため、食事を通して十分に摂取する必要があります。タンパク質を多く含む食品にトリプトファンは豊富に含まれており、特に以下の食品は摂取を心がけたいものです。
- 数の子
- 卵白
- 鰹節
- 大豆製品(豆腐、納豆など)
- 乳製品(無脂肪のものを除く)
- レバー
- ナッツ類
これらの食品を積極的に摂ることで、うつ病の予防に繋がるだけでなく、不安な気持ちが和らぎ、イライラしにくくなる効果も期待できます。トリプトファンが豊富な食生活を送ることは、心身の健康を保つ上で賢明な選択と言えるでしょう。
うつ病予防と心の健康を支える食生活のイメージ
コレステロール値と心の健康の意外な関係
意外に思われるかもしれませんが、様々な調査で血中のコレステロール値が高い人の方が、うつ病になりにくいという結果が示されています。その理由として、コレステロールがセロトニンを脳内へ運ぶ働きをしているからではないかと考えられています。
さらに、コレステロールは男性ホルモンや女性ホルモンの材料となるため、老化を遅らせる効果も期待できます。また、免疫細胞の細胞膜の主要な材料であることも明らかになっています。
コレステロール値が高すぎると動脈硬化のリスクが高まると言われ、すぐに薬を処方する医師もいますが、これには一考の余地があります。欧米のように心臓病が死因のトップクラスを占める国は別として、日本のようにがんによる死亡者が心筋梗塞による死亡者の10倍以上いる国では、むしろコレステロール値は高めのほうが望ましいという考え方もできるのです。これは、コレステロールが免疫機能やホルモンバランスにも寄与するという多角的な視点から見た見解であり、高齢者の心の健康だけでなく、全身の健康を考える上で重要な視点です。
まとめ
高齢期のうつ病は、適切な知識と日々の心がけによって十分に予防可能です。脳内の「幸せホルモン」であるセロトニンを増やすために、トリプトファンを豊富に含む食品を意識して摂取すること、そしてコレステロールの多角的な役割を理解することが、心の健康を保つ鍵となります。
不安を抱えがちな高齢期だからこそ、食事や生活習慣を見直し、積極的にうつ病予防に取り組むことで、充実した毎日を送ることができるでしょう。自身の体と心の変化を前向きに受け入れ、専門家のアドバイスも参考にしながら、健やかな高齢期を過ごすための習慣を身につけていきましょう。
参考文献
- 和田秀樹『80歳で体はこう変わるからやっておきたいこと』(PHP研究所)
- Yahoo!ニュース – うつ病の予防策をお教えします